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2005年06月07日(火) 夫のネクタイ、結べますか?

※ 前編はこちら

むかしから衣と食にうるさい男性はノーサンキューの私であるが、だからといってこだわりがまるでないという人もちょっとなあ・・・。
以前、テレビで渡辺徹さんが「おかずがなければごはんに水かけてでも食べます」と言っていたのを聞いて、こんな人が夫だったらいやだなあと思ったことがあるけれど、着るものについても同じことが言える。センスはどうあれ、「自分で選ぶ」というラインはぜひとも持っていてもらいたいと思ってきた。
まだ若いのに奥さんから「はい、これ」と渡されたものをなんの疑問も不満も持たずに着る男性がいたら、“牙を抜かれた”感を受けると思う。彼から男としての魅力を感じとることはむずかしいのではないかという気がする。

しかしながら、「私の相手は自分で服を選ぶ人であってほしい」にはもうひとつ理由がある。私には男性のファッションがまるでわからないからだ。
ワイシャツならまだいい。無地や色柄の派手でないものを選べばどうにでもコーディネートしてくれるだろう、と思うことができる。しかし、ネクタイを選ぶ自信はゼロだ。
数年前、シンガポールに行ったときのこと。彼へのお土産にめぼしいものがなかったので、ネクタイでいいかと百貨店に寄った。私が候補に選んだものを見て、先輩が「小町ちゃんは優しいなあ」と感心したように言う。

「そんなことないですよ。先輩も買ってあげたらいいのに」
「私はええわ、父親にお土産なんて」
「父親?」
「それ、お父さんにやろ?」
「いえ、彼ですけど・・・」

そうしたら彼女は、それはおじさんがするネクタイだと言って笑いだした。そして、「彼氏やったらこういうのんやろ」と二、三本持ってきた。
私は青系で、なおかつおとなしめの柄のものを選んでおり、それに比べれば彼女が私に勧めたものはたしかに幾分華やかだった。けれども、彼女のチョイスが二十代の男性がするのにふさわしい色柄のものであるのか、私には判断がつかなかった。
店頭に並ぶ女性用の服やバッグを見れば、どのくらいの年齢層の人をターゲットにしているのかわかるが、ネクタイの場合まったくわからなかったのである。

スーツ姿なんて会社でもプライベートでもすっかり見慣れているはずなのに、現実には恋人のネクタイ一本選べない。このとき、私はいかに自分が男性のネクタイに注意を払っていなかったかを知った。
こんな私であるから、毎朝クローゼットを開けて夫のネクタイを選びだすなんてことはもちろんない。


ところでネクタイといえば、私にはひそかに憧れていることがある。ネクタイを結べる女性になることだ。
少し前に女四人で話していたら、中にひとりだけ「私、できるよ」という人がいた。「彼の後ろに回って自分の首に結ぶみたいにしてやるの?」と尋ねたところ、ちゃんと正面から結べると言うので、私はいたく感心した。浴衣の帯で経験があるのだが、自分のを結ぶことはできても人のを結ぶのはとてもむずかしいのだ。

といっても、あいにく「毎朝結んであげたい」と思っての話ではない。
『阿修羅のごとく』という映画の中に、妻が出掛ける夫のネクタイを結ぶシーンがある。夫は「早くしろよ」と言い、妻は懸命に結び目を整える。この話は昭和五十四年の設定だから「へえー」と思うくらいであるが、もし現代にそれを当然と思っている夫や妻がいたらちょっと気持ち悪いなと思う。靴下を履かせてやるのとどこが違うのだろう?
なので、仮に結べたとしても日常的にやるつもりは全然ないが、結ぼうと思えば結べる女性っていいなあとは思う。
そういう技を隠し持っておいて、なにかの折に慣れた手つきできれいに結んだら(もちろん正面からだ)、夫はどきっとするのではないかしらん。器用に動く指先を見つめながら、「誰に教えられたんだ・・・?」なんて心中穏やかでなかったりして。想像するだけでわくわくする。
ああ、どうしてネクタイの結び方くらい独身のうちに誰かから習っておかなかったんだろう!