中村うさぎさんがエッセイの中で、久米宏さんの奥さんに腹を立てていた。
雑誌の対談で麗子夫人が「夫の衣装は私が選んでいます」と話しているのを読み、「それって自慢するようなことか?」と首を傾げる。
単に、自分の服も選べないほど面倒臭がりでスタイリスト雇う金もケチるような男が、女房にタダでコーディネートしてもらってるって、そーゆー話でしょ?そんなサラリーマンなら日本中にゴロゴロいるし(毎朝、妻にネクタイ選んでもらう男とかね)、「内助の功」ってほどの美談でもない。 |
そして、このあと文章は「有名人の妻ってことだけでチヤホヤされてさ、あの程度のファッションセンスでスタイリストヅラしないでもらいたいわ」とつづく。
『ニュースステーション』の久米さんの衣装を夫人がスタイリングしているというのは有名な話であったが、彼女が夫だけでなく、渡辺真理さんやコメンテーターの衣装も担当していたというのはあまり知られていなかったらしい。
お金と暇があってちょっとおしゃれに興味のある家庭の奥さんが夫の着るものを見立てる・・・という次元の話ではないから、「素人のくせにスタイリストヅラして」は見当違いだと思うのであるが、まあそれは置いておこう。
私が興味を持ったのは、「そんなサラリーマンなら日本中にゴロゴロいるし(毎朝、妻にネクタイ選んでもらう男とかね)」という部分なのだ。
先日友人と待ち合わせをしたときのこと。食事の前に買い物に付き合ってほしいと言うのでついて行ったところ、そこは百貨店の紳士服売り場であった。
「なに買うん?」
「だんなのワイシャツ」
私は彼女が品定めをする隣りで、自分だったらどれを選ぶかなあと一緒に棚を見はじめたのであるが、すぐにあることに気がついた。
タグに「38-78」「40-82」といった数字が書かれている。サイズ表記であることはわかるのだが、「38」や「78」がそれぞれどこの長さを指しているのかわからなかったのである。
しかし、彼女は難なく衿回りとゆき丈だと答えた。なるほどと頷きながらはっとする。
「ねえ、だんなのサイズ知ってるん?」
「うん。柄とかこだわりないみたいでさ、いつも私が買ってるねん」
へええ、そうなのか。私は夫のそれを知らない。
「夫の衣類はだいたい私が選んでいるわね」という妻は世の中にどのくらいいるのだろう。
下着や靴下は別として、人の目につく衣類は一緒に買いに行くという夫婦が多いのではないかと推測する。その際、夫が自身で好みのものを選ぶ場合と、妻が「これがいいんじゃない?」と目星をつけたものの中から選ぶ、つまり実質的には妻が夫のファッションを決めている場合とに分かれそうである。
いずれにせよ、わが家のような「妻は夫の衣類の購入にノータッチ、ファッションになんの影響も与えない」という家庭は少なそうだ。
夫はとくにおしゃれな人というわけではないので、普段着はどうということはない。が、営業のサラリーマンなので平日の格好にはかなり気を遣っているようだ。
「線が何本も入りそう」と言ってスラックスのプレスは私に頼まないし(失礼ね!と言いたいところだけれど、実際に失敗したことがある・・・)、車に乗るときは背中に皺が入るのを嫌って上着を脱ぐ。食べた後の皿はテーブルに置きっぱなし、タンスの引き出しは開けっぱなしにする横着な人であるが、革靴は自分で磨き、いつもぴかぴかだ。
そして、それらは必ず自分で選ぶ。お気に入りのブランドから新作入荷の案内が届くと東京まで出かけて行くのだ。
そんなわけで、私が毎朝夫のネクタイを選んだり、ブティックで似合いそうなものを見つけたからといってなにかを独断で買って帰ったりすることはまずない。 (つづく)