微分積分とキモイおっさん

『微分積分は頑丈な学問だ。』

予備校教師のこの一言で僕は数学が好きになった。
それまで、赤点スレスレだった点数はクラスで1番になった。

学校の教師は僕を呼び出してカンニングをしたのではないのかと、目の前で数学の問題を解かせた。もちろん僕は全問に正答した。

福音のごときその言葉を聞いたのは台風の夜だった。

予備校に行くと定期テスト前で台風という事もあり生徒は僕一人だった。

先生は教卓ではなく生徒の座る椅子を使い、僕と机を向かい合せて授業を始めた。
幾何学模様のシャツを着た、キモイおっさんだった。

『微分積分は頑丈な学問だ。だからちょっとやそっと無茶したところで理論は崩れないんだ。』

そう言うと、きょとんとした僕を前にして先生は微分の計算を始めた。

僕はこの日に一生分の数学を教わった気がする。頭の中に雷が走ってその日は眠れなかった。教科書には書いてない事だったけど今までで一番数学を理解できた。

大事な事は簡単な事だった、教科書に書かれている事は難しくてどうでもいい事だった。

それを理解してからは、数学の問題集が大好きになった。
ゲームソフトを買うように本屋に走っていっては、問題集を大事そうに抱えて帰ってきた。親は気が狂ったのかと本気で心配していたぐらいだ。

そして、次の定期テストで98点をとった。クラスの平均点は47点でダントツの1番だった。

あれから6年以上たつが、僕はまだこれ以上インパクトのある言葉に出会っていない。

次に僕が福音を聞くのはいつになるのだろうか。
2005年01月05日(水)

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