★マッハ君★

マッハ君と僕は親友だ。まだ話したことはないけれど。

去年の春の昼下がりに僕たちは出会った。昼食の混雑がピークを過ぎた頃、僕はいつものようにこんにゃくゼリージュース80円を買い求めた。

ふと、レジを通り過ぎた女性の話し声が聞こえてくる。
『あの人はやいよねえぇ〜』
『ねー。びっくりした』
何が何だかよくわからない会話だ。

レジに並び颯爽とジュースを差し出す。すると一瞬レジ担当の男性の目が光った。

軽やかに打ち下ろされる指、まるで何かの楽器を奏でるかのような素早いレジ打ち。

『は、はやい』

圧倒された僕は急いで財布の中から100円硬貨を取り出そうとするが、急ぐあまりにうまく取り出せない。彼は地団駄を踏みながら待ちわびている。

やっと100円硬貨を取り出しおつりを受け取るが、レジが終了する頃には気が遠くなるほどの時間が過ぎ去ってしまった。レジの男性は口惜しそうな顔をしている。僕の完敗だった。

それが僕とマッハ君との衝撃の出会いであった。

いつの頃からか、彼はマッハと呼ばれるようになっていた。昼と夕のレジ混雑を緩和するという、一見不可能にも思える大プロジェクトを彼はたった一人でやってのけたのであった。マッハ君は彗星のように現れた食堂の救世主だった。

その日から僕とマッハ君との戦いが始まったのだ。

僕は財布の他に小銭入れを携帯するようになった。彼と戦うための必要最小限の装備だ。小銭入れの中には1円硬貨4枚、5円硬貨1枚、10円硬貨4枚、50円硬貨1枚、100円硬貨4枚、500円硬貨1枚が常に昼用と夜用の2セット用意されていた。

レジをすます前に頭の中で電卓をたたいた僕は小銭入れから硬貨を取り出す。

マッハ君のレジが早いか、僕がお金を取り出すのが早いか。

ガンマンの早抜きのようにお互いがベストを尽くす。熱き死闘。
ほぼ同時にお互いが仕事をおえる。相打ちだった。

マッハ君は他の客には見せない素敵な微笑みを僕に見せてくれた。

僕とマッハ君は親友だ。

もはや僕たち2人には言葉など必要ない。
2005年01月06日(木)

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