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- 2005年08月18日(木)
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- 『これからの、二人』(イラスト付創作エッセイ)
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(イラスト付創作エッセイ)
藍色から群青に移りゆく部屋を出て、ダイニングへと足を運ぶ。 冷蔵庫から冷えたお茶を取り出してグラスに注ぎ、一気に飲み干す。 正面に置かれた時計のAM5:00という表示が目に入った。
昨夜は何事も無く、二人は部屋で眠りについた。 しかし、正確に云えば「何事も無く」というのは嘘であった。 数日前から既に、彼女は自らの気配を消していた。 傍に居るにもかかわらず、いつもの彼女は居なかった。 少なくとも彼はここ数日、ずっとそう感じている。 そうして未明になると、彼女の身体という実体も居なくなるのだ。 今、家の中には彼一人だけ…。
結婚して3年、 互いに理解し合って、同じ屋根の下に暮らし始めたつもりだったが、 生計を共にして日々過ごすとなれば、恋愛していた頃のようにはいかない。 彼女は変わらぬ刺激を常に求め、彼は継続することで手一杯になった。
彼女は、これまでも幾度となくこういう事はあった。 今朝のように、何も云わずに居なくなってしまうこともあれば、 「つまんない。毎日楽しいことしたい」や、「今好きな人がいる」とか、 「あたしがいなくなったら困る?」といったメールを通り魔のように送ってきたり、 数日ひたすら黙っているかと思えば、感情を露に大声を出すこともある。
彼女からはいつもサインだけしか送ってこない。 それを読み解いて、行動を決定するのは彼の仕事だ。
「あなたがそう思うなら、それでいいよ」
常に帰ってくる返事は、それが正解かどうかさえ明かされない。 彼は自分なりの解釈とアレンジで行動してみるものの、 それは肉声を通じた共感の無い『自作自演生活』であった。 彼女は刺激を与えてくれるものの実体が無い。空気のように 常にそこにあるわけでもなく、まるで電気のようだ・・・と彼は思った。
彼は正面の棚に視線を漂わせると、一枚の写真が視界に入った。 その写真をしばらく見つめた後、彼は窓際に立って煙草に灯を点ける。 胸の奥から吐き出した白いものが、白濁した空へと溶け込んでいく。
時計の表示がAM6:00に変わった時、玄関のドアが開いた。 すうっと、無表情の彼女が静かに姿を現す。 彼が起きているのが意外だったのか、彼女の表情の時間が止まる。
しばらく二人で顔を見合わせた後、 彼女はゆっくりと室内へ歩き出し、冷蔵庫の前で止まった。 お茶を取り出すとグラスに半分だけ注ぎ、少しずつ喉へ流し込んでいく。 グラスがテーブルに置かれるのと同時に彼女が口を開く。
「繰り返していくだけなのかな…」
煙草を消しながら、彼は視線を向けた。
「あたしたちって、このまま普通に過ごして、歳をとって、 死んでいくだけなのかな? 愛のある生活ってこういうもの?」
「『愛って何?』ってか?」
「『愛』ってもっと、たのしくて刺激があってドキドキして、 それでいて、落ち着いていて安心して…」
「お前さんはよくばりだな。」
「そうかしら? でも、全部ほしいの。あたしの中ではそういうもの。 あたし、刺激がないと生きていけないみたい。 …そういう、ものを、くれる人が好きみたい…」
「この生活は、たのしくないんだろ?」
窓の外の白みゆく空へ、彼女は視線を投げつけた。
「楽しい時は楽しいよ…当たり前か…。 でも、寂しかったり辛かったりする時の方が多い…」
「寂しい時に楽しい時間をくれる人のところへ行くわけだ。 空白の時間を埋めていくわけだな。」
「寂しい時に他の人に逢っちゃいけないの?」
「全然いけなくないよ。お前の自由だ。 気持ちを満たしてあげてないのは俺の責任だ。 でもな・・・、楽しい時は楽しい・・・って云ったよね? 裏返せば、楽しくなければ俺といる意味はない?」
「・・・?」
彼は冷蔵庫からお茶を取り出して、2つのグラスに注ぐ。
「『愛』って何だろうね?」
「・・・??」
「『人』を愛するのか? 人は誰でもよくて結局は、 『楽しいことや刺激的なこと』を愛しているのか?」
「あたしは・・・、 好きな人と、何をして、どのように楽しく過ごして、 どう生きるか?って考えてる。…あなたはどうなの?」
一瞬、間をおいて、 彼はふと、棚の写真に視線を移した。
「あの写真・・・ 飲み屋で撮った俺らのツーショット・・・、覚えている? 何年か前、みんなでお前のバースデーパーティーに集まった時に 誰かに撮ってもらった写真・・・」
「え?、う、うん覚えてる。」
「あの写真って、誰かが余計に焼き増ししちゃった分も受け取ってさ、 余ったやつに、二人でそれぞれ落書きして、交換し合ったのも覚えてる?」
「うん、何か書いたかは忘れちゃったけど・・・」
「俺が書いたのってすごくつまらなかったんだよ。 でも、お前からもらった落書きって、写真から想像するに、 まず思いつかないネタになってて、ビックリしたんだ。」
「そうだっけ?」
「はは・・・、覚えてないか・・・、でもね、その落書き写真、 え〜っと…何つーか…ものすごく愛を感じましたです。 うん、めっちゃ感じた。あれだけで俺は幸せなのかも…。 だから、お前の求めるものとは噛み合ってないのかな?…」
「・・・そ、そう。なに、書いたかな?…」
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(3年前…)
「この写真、なんか2人とも表情出ててイイね〜。 でもさこの写真、なんでお前は俺の肩を揉んでいたんだっけ?」
「あんたが、『最近肩凝っててよ〜』とか云って、 マサジ自慢が競って肩や頭や首を揉み出したんじゃないっけ?」
「ああ〜思い出した。みんなに実験的に揉まれ過ぎて、 最後のお前のマサジはもう痛いだけだったよ。 そうでなくても何か知らんがお前、指の力がもンのすごく強いし」
「あはは、痛がってたね〜、あ、この写真、4枚も入っているよ〜」
「焼き増しし過ぎたんだろ?」
「ねえねえ、この余りの写真にさ、何かセリフ書き込んでみたくない?」
「あはは、オモロイね〜、やってみよっか…って、 もうこのシーンだったら、台詞決まってるだろ〜」
「うふふ…、そこを考えるのよ〜」
彼の落書き↓
※クリックして別ウィンドウで拡大表示
「あはは、めっちゃハマってるよ〜」
「でも、ちょっと直球すぎたかな〜」
「いや〜、でも面白いよ〜、いいね〜」
彼女の落書き↓
※クリックして別ウィンドウで拡大表示
「何で、いきなり老夫婦なんだよ笑!」
「なぁに〜いいじゃない〜、ありえるでしょ。」
「うん…、でも、何かうれしいね…」
「はぁ、何でよ?」
「先のことは分からんけどさ、でも、 『これからもずっと一緒にいられるんだな〜』って思わせてくれる感じが、 なんか、普通だけど単純で、それでいて究極な『愛』って感じで、イイなぁ〜って」
「…な、何照れてんのよ!、そんな大それた意味のつもりじゃ…」
「あはは、いいんだよ、俺がうれしいんだから。 そう感じられることが土台になって、生活に仕事に励めるんだよ、男って」
050818 taichi
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