ブルーボタンインコのオーちゃんは10歳のオスだ。人間で言えば お祖父さんと 呼ばれて腹を立ててるおっさんくらいの年齢だろうか。 我が家でボタンインコ類を飼い始めて15年になる。飼ったインコ数は3羽。 意外と少ないが1羽1羽が長生きなのだ。 他の2羽はメスだった。そして凶暴だった。小桜インコのモモちゃんはおもちゃのような 風体をして悪魔のように凶暴だった。或る日、小屋の掃除をしていると、猛烈な頭痛が して来た。うずくまりたくなる様な痛みに「やばっ」 と思って良く見ると 耳たぶに モモちゃんがぶら下がっていた。はがすと穴が開いていた。血がぴゅ〜だ。 この鳥は本当に怖かったので 世話は家人に任せていた。 2羽目のポンタはヤマブキボタンインコと言う真っ赤な口ばしに橙、黄、緑と 言う 羽毛のグラデーションが美しい鳥だったが、やはり凶暴だった。 そして新しく我が家にやって来た小さな赤ん坊の事が、心底 嫌いな様子であった。 鳥頭と言われるくらい、鳥は何でも直ぐ忘れ、理解もしない賢さの足りない生き物だと 思われがちだが、それは違う。中型の、普通に飼えるインコでも賢いものは部分的にだが 2〜3歳児並みの理解力を持っている。ただ、賢くない物もいる気がするが それは単に、人との距離の取り方の違いであるのかも知れない。 それが判らないんだから、こちらも大して賢くは無いのかもだ。 おそらくは嫉妬から、息子を噛む恐れが大変強かったため、ポンタは別室に隔離された。 オーちゃんもその時 一緒に隔離されたが、ポンタが寂しくないようにと言う理由で あり オーちゃんは早くから、人間の子供に興味津々な様子であった。 息子が2歳の時、ポンタは死んでしまう。一羽残ったオーちゃんは非常に物静かで 気の優しい鳥であったため、息子の活動場所である居間に戻される事になった。 オーちゃんは余り鳴かない。だが寝言がひどい。鳥も寝言を言うのだ。 誰かが居間の椅子で休んでいると大騒ぎをする。死んでいると思うらしい。 人を噛んだ事は数えるほどしかなく、どれもちゃんと理由があった。 焼きそばを口に入れたらおいしかったので、もう一口食べようとしたら人間に 引き剥がされてむかついたとか、やっぱりどこか動物な理由だが。 物静かで温厚な彼だが、怒る時は怒る。午前1時を過ぎて、居間で家族が話を していると「ぐぎゃあ」と言う、信じられないほど汚い大声を一度だけ出す。 「うるせえな、さっさと寝ろ」と言う事らしい。 一人っ子の息子の一番の友人が、このオーちゃんだ。叱られた時、悲しい時 息子は一人、籠にへばり付いている。イチゴを貰った時は おすそ分けに行く事もある。 しつこくすると軽く噛んで寄越すらしいが、息子の方も文句を言うだけで泣くでも 怖がるでもない。 近所のお寺の境内で、若い住職の子供さんが二人、遊んでいた。 お兄ちゃんが 息子と同じくらいの年齢。2歳ほど下の 妹さんが居るようだ。 「ボクの妹だよ」と息子に紹介してくれている。 「ボクにも妹がいるよ。オーちゃんって言うんだ。・・・・・・鳥だけど」 最後の「鳥だけど」が 何だかつらいが、相手の子は「そうか、鳥なんだ」と言って にっこりと笑ってくれた。 オーちゃんがオスである事は知っているのだが 「だけど妹」と息子は言う。 この種の鳥は15年を越えて生きる物もいる。 手前勝手な事情だが、オーちゃんには なるべく長生きして欲しい。
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