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歯医者に通院中。もう15年同じ歯医者に通っている。H先生は優しく、治療も上手。 2年も経たない間に親知らずが4本生えて来ると言う最低最悪の事態を、それでも 心にも身体にも大したダメージを残さず 乗り切らせて頂いた。 治療途中で放っておいて、更に悪くしてから再来院と言う良くない患者の典型だが いつも優しい口調で迎えて下さる。 だが、だからと言って歯医者通いが好きかと聞かれれば大嫌いと答えるしかない。 まず、あの歯を削る機械の妙に高周波な音が嫌。人のを聞いているのも嫌。 鼻でも口でもそうだが、穴を無理矢理開いて金属を突っ込まれる行為を「好きだ」 と言う人がいるだろうか??
それはそれとして、そんな歯医者通いにも楽しみがない訳でも無い。 そこでは大きな水槽があって、小さな滝のようにして水が循環している。そして そこには二匹の中型のカメと少しの熱帯魚が飼われているのだ。 私はカメには詳しくないが、好きではある。そして彼らが意外なほど高価である 事も知っている。実は欲しいと半分真剣に考えた事があるからだ。 多分、高価なんだろうなあと思われるカメは、二匹が大抵別々な場所で好きな事をして おり(大抵はじっとしている)何処に居るのか探しているうちに、時間予約制なので 早くも名前を呼ばれてしまう。会計も、やけに早いので、余り長くカメを観察する 事は出来ない。会計が済んでもカメを見ていたら変な人だと思われてしまうかも 知れないと考えてしまうから、私はさっさと病院を出る。
その日、カメを見ると、珍しく二匹は同じ場所に居た。重なっていたのだ。 正に親亀の上に小亀状態。だが二匹は ほとんど同じ大きさだ。 交尾か?と初めは思った。でも・・・何だかこれではちょっと隙間が開きすぎている と言うか、無理を感じて良く見ると 二匹は90度の角度で重なっていた。 何と言うか・・・直角? 180度ならまだ何かしているのかも知れないと思ったかも知れないが、90度では余り そこに上手く意味を見出す事が出来ない。 強いて言うなら、今しも互い違いに回転し始めそうだなどと考えた。 でも何かをしようとしていた途中なのかも知れないし。 「焙煎さあん」・・・ちっ、名前が呼ばれた。続きが見たかったのに。でも歯医者 さんでそれは言えない。 治療が終って慌てて戻ると、カメは各々の場所に居て、もう重なってはいなかった。 あ〜あ。
それでも家に帰って「カメの交尾」について調べてみた。ほほう、なるほど。こうするんですか。 やっぱり あれは途中と言うよりは、見たところ 無防備に下に居た一匹の上に石の上から もう一匹が降って来たんじゃないのかな。 それと、あれはどっちも同じ性別なんじゃないのかなあ〜とも考えた。カメの交尾は かなり・・・と言う事らしいので、やはり歯医者さんの待合室で延々とそうした事が 続けられたらまずいんじゃないか。もし、どんぴしゃりの時に居合わせて、さあ これから と言う時に「焙煎さあん」と呼ばれたら、私はそこが歯医者であとうと、きっと怒るだろう。
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