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数日前に壊れたラジカセで今、私は長い事行方不明だったリュートのCDを聴いている。大満足だ。 ラジカセは結局、未だ修理に出しては居ない。ついさっき、思うところあって、ある部分を強制的に 持ち上げ、ある部分を強制的に引っ張って見た。そうしたら動いたでは無いか。 叩くだけじゃ駄目なんだね、最近の家電はね。もっとこう、手の込んだ思い知らせ方をしてやらない と。年末だもん、ラジカセ修理に出している場合じゃないよ、虫歯の治療も途中だしさ。
スピッツの「ロビンソン」がヒット街道驀進中と思われた頃の事だ。買い物をしていても有線で流れて 来ていた。誰が歌って居るのかも良くは知らなかったが、ぼんやりと どこかGS時代の様な懐かしさを 感じさせるメロディーを聴いていた。掠れた甲高い声の割には歌詞がはっきり聞き取れるボーカルで 言葉にきちんした流れがあったので、つい聞き入ってしまった。そのうち2番の歌詞に入り呼吸を 止めない猫と言う言葉にぎょっとした。その時がこのグループに興味を持った最初だ。 呼吸を止めたら生き物は死ぬ。人でも猫でもおんなじだ。だからこれは「まだ死んでない」と言う事なの であろうが、何れ死ぬ事を暗示している。そして死ぬまでを見ている作詞者の目がある。 生き物の死に行く様を間近で観察した事のある人なのかも知れないが、少なくともここに出て来る 「抱き上げて無理矢理頬寄せ」られる猫は『観念の上での死』を迎えようとしている様だ。 だからぎょっとはするが、強烈な印象を耳に残した後すんなりと詞は続いて行く。そして残った印象も 決して心地悪い暗さを伴った物では無いのだ。臭うような死では それは無いからだ。 立て続けにヒット曲が出たようで、さすがにスピッツと言うグループが歌っているのだと言う事が 判った。歌詞には初めから関心があったので 知っている人に聞いて見ると歌っている人が作詞作曲 もしていると言う。成る程と思いつつ、特にそれ以上追いかける事も無く、音楽を余り聴く余裕も無い 生活となってしまった。
スピッツの名前は憶えて居たので、最近になってCDを借りて聴いて見た。 「海を見に行こう」と言う曲のイントロを聴いて サイモン&ガーファンクルの「木の葉は緑」である事に 気付く。違う!と言われたらそうですかと言うしか無いのだが、違わないんじゃ無いだろうか。 家にアルバムが4枚あったので、S&Gは小学生から聴いていた。 私としては非常に嬉しい。自分が生まれる前にヒットした様な洋楽ばっかり聴いて大きくなったので、 自分にとっての懐メロは既に廃盤は当たり前、リバイバルブームと言う奴ですら とっくに終わっているなんてざらなのだ。名曲が 何かを残したままに 形を変えて生まれ変わるのが聴けるのは嬉しい。 同世代の人間がそれをしてくれると言うのは更に嬉しい事だ。 実はこのスピッツのボーカルの 草野正宗と言う人は、思い切って言ってしまって私と同世代の人 なのだ。確かに年は幾つか下ではあるが 仮に結婚してもへえ〜っとか周囲は言わないくらいの 年の差なのだ。(例えにしてもファンの人が読んでいたら済みませんね) レンタル率が高いのか、ショップでスピッツを借りて行く人を何人も見掛けた。(それに比例してCDは みなボロボロである)。借りて行くのは10代後半から20代前半と思われる『若い』人達だ。 レジで並んでスピッツと言う事が一度あって、隣りでハチミツを借りていたのは多分 まだ10代半ばの お兄ちゃん。自転車で来てたに違い無い。 自分の息子が女の子くどく時にかける音楽を作って歌っていられるなんて、素晴らしい事では あるまいかと これまたファンの人が聞いたら本気で怒られてしまいそうな事を思わず考えてしまう。 草野氏は独身だそうであるが。
桑田佳祐は言葉を弄って遊ぶ事が好きで、かつ綺麗なメロディを作る人だが、この草野正宗と言う 人も『韻』を踏ませて言葉で遊ぶのが上手な人である。 ジャンルによっては『韻』で取る調子が大きな部分を占める音楽もあるが、スピッツの『韻』はもっと 古い時代の洋楽の匂いを感じさせる。日本語はメロディに乗せて綺麗に『韻』を踏ませる事が 難しそうな言葉だ。だが、スピッツの音楽はメロディも美しい。古式ゆかしい美しい日本語、外来語、 造語、略語これらを総動員して『韻』を踏み捲る。意味より流れを重視しているかのような独特の 歌詞世界の中で 意味もまたちゃんと通じ、それにも何処か観念的で美しい独特の味がある。 この人がどんな音楽を聞いて育った人なのか詳しく知らないが、スピッツのメロディを聴いて連想する のはソフト・ロックとかフォーク・ロックとか ちょっと独自な呼ばれ方をされながら美しい言葉とメロディ を提供し続けた60〜70年代の幾つかのグループだ。
スピッツと言うのはボーカルの草野氏の声が「スピッツのように甲高いから?」と思っていたのだが 違うらしいと最近知った。
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