せらび c'est la vie |目次|昨日|翌日|
みぃ
うちの近所は、この週末は連休という事になっているので、今日は月曜ながらお休み。 しかし例の語学講座の前半戦中にやり損なった宿題が溜まっているので、この中休みを利用してやっつけている最中である。 動詞の活用に入った辺りから話がややこしくなって来て、少々手こずっている。やはり、そんなに簡単な筈は無かった。 オトコ問題は、もういい。 もしこうも度々ワタシの人生に戻ってくるコイツが、ワタシの人生にとって何らかの意義ある存在なのだとしたら、放っておいてもまた戻ってくるのだろう。ワタシが今あくせくせずとも、ワタシたちの関係は遅かれ早かれ強固なものとなるのだろうし、またはその意義を自ら明らかにし教訓を置いて去って行く時がやってくるのだろう。 ワタシはその行方を、今必ずしも知る必要は無い。 …何しろこんなに宿題が溜まっているのだから、それどころでは無いのである! ワタシの一日は容赦無く過ぎて行く。 ワタシの人生もまた、彼がいよいよ人生の大きな決断をしようがしまいが、またはもっと小さな決断、例えばワタシに今日電話をして元気かい、今君の事を考えていたよベイビー、などと言おうが言うまいが、この場に留まらないのである。 Life goes on. ところで去る土曜日、例によってヴォランティア活動をしに出掛けたところ、最近余り快く思っていないある若者が、なんと公衆の面前でワタシに辱めを負わせた。 (直訳すると凄い日本語…) 彼は某アジア系の二世市民なのだが、いつも内容の無い事をぺらぺらと語っては、薄っぺらい馴れ馴れしさをもって人に接する、自称二十七歳のお穴の青そうな青年である。 (とは言え、実際問題として、この民族には多分「蒙古斑」は無い。) 彼は万人に親切ぶっているけれど、実際それはワタシの目には押し付けがましくて鬱陶しい行為である。 自分はこれだけ親切にしているのだから、誰も自分を嫌う事は出来ないのだ、とでもいうような、歪んだ自我が丸見えのコドモに見える。 実際見た目も幼稚くて、やっと二十歳くらいかなと思わせる程である。 最もワタシの気に障るのは、彼がワタシを実際以上に二ホンジン扱いしたがる点である。 つまり、ワタシは二ホンジンなのだから、当然アニメだの漫画だのという日本のサブカルチャーに通じているものと勝手に思い込み、日本では今何が流行っているのか等という様な質問を浴びせ掛ける。 もう十年以上日本に住んでいない上、その間ほんの二三度、二週間程度ずつ帰った事があるきりだから良く知らない、それにワタシはアニメ・オタクでは無い、と何度も言っているのに、人の話を聞かない馬鹿者である。 彼は最近ある職業訓練校だか専門学校だか、兎に角二年制の学校を漸く卒業して、それから地元の公立四年制大学に編入しようとしたのだが、入学審査試験の数学部門で落ちてしまったそうである。アジア人にしては、珍しい話である。 それでこの夏は、その追試験の為の補習授業を取る事が義務付けられていて、秋学期が始まるまでに試験を受け直す予定で、それに合格するまでは大学生になれない事になっている。 こんな風にお馬鹿さんな癖に、博士課程学生用の夏季集中語学読解講座を任意で受講しているこのお姉さんを一緒くたにして、やあお気の毒に、君も夏休み返上で夏期講習を取らなくちゃならないのかい?などと知ったような口を利くので、別に「お気の毒」な事など何もありませんよ、ワタシは貴方と違って学部入試に落ちた訳ではありませんから、と一々説明するのも面倒で、ワタシはこの坊主にはもうすっかり辟易しているのである。 そういう訳でいい年をして両親の家に未だ住み付いたまま自立せず、しかも定職に就いていないからいつも貧乏で、というか貧乏臭くて、彼は割引券の類の物をいつも沢山持ち歩いている。そして如何に自分が金を使わないかという辺りのテクニックを、一々人に触れて回るのである。 例えば人の誕生日プレゼントはいつもあそこの激安屋で見繕うとか、薬局で買い物の際には必ずその「薬局カード」を提示してポイントを貰い、後で五パーセント割引だとか、そういう話である。 ワタシは幾ら一世代違う若者とは言え、これは随分食傷だなと思いながら聞いている。そりゃあ若いうちはそれでも良いかも知れないが、そんなに貧乏臭いのじゃ女も寄って来ないだろうに。 コイツと一緒に食事をする羽目になった日には、ファストフード店でその割引券を目一杯利用しての食事となった。 ワタシはこの年になってまで、ファストフードという元々安いものをあんなに安く喰う羽目になるとは、と何やら奇妙な感慨に耽ったものである。 「親しさ」と「馴れ馴れしさ」というのは本来別のものだが、彼にはその辺りの区別が出来ないようで、何時だったかには公衆の面前でワタシにお前は「シングル」かとあけすけな質問をしてきた事がある。 しかも、「シングル」=「嫁き遅れて困っている」という風に勝手に解釈している節がある。 そこへアジア的厚かましさが加わり、では誰か世話してやろう、という誰も頼んでいないお節介な話が湧いて来る訳である。 彼は、自分には年上の従兄がいて、コイツはここ数年何故か女性とお付き合いをしていないのだが、しかし親切でとても頭が良いから、君もきっと気に入る筈だ、と唐突に言う。何を根拠に「頭が良い」のかは、不明である。 幾ら「シングル」のワタシでも、そんな気味の悪いアジアのオタッキー君と付き合わなけりゃならない程には困っていない。 ああそう、と適当に返事をしていたら、今度彼を君に合わせるから、そうしたら話をしてみてくれるかと言う。 それともこの民族とは付き合いたくないのか、と言うので、いや特に人種だとか民族だとかでワタシは交友関係を限ったりしないので、誰であろうと友達になるのは吝かでないと言うと、何やら大げさに喜んで、勝手に期待していたようである。 思えば、嫌な予感は既にあった。 先週にも同じ施設へヴォランティアに行ったのだが、そこでまた彼に出くわした。その際彼は、近々女子プロバスケットボールの試合を皆で観戦に行きたいので、良かったら一緒にいかがと誘って来た。 ワタシはどちらかと言うと、バスケットボールに関しては観るよりやる方の人間なので、やらない人間がちゃらちゃらと観戦するのに同席するという事に、余り気が進まなかった。しかし実際観に行った事が無いでも無いので、まあそれ自体は良しとしようと思い直したが、しかし特に贔屓のチームでもないのにわざわざ大枚叩いて観戦するというのも、何だか気が引けた。 そういった内心を反映して、ワタシの返事は余り気乗りのしないものになってしまった。 すると彼は、別に「デート」に誘っているのではないのだから、そんなに真剣に取るな、と冗談を飛ばした。 ワタシは周囲の手前軽く笑っておいたが、しかし可笑しくも何とも無い上、寧ろ「早とちり」に近い、この先走った自我防衛的冗談にほとほとうんざりして、心中「はいはい」と相槌を打った。 しかし今のところ語学講座で忙しい日々を送っていて、今月末でそれが終わったら直ぐさま、保留にしている本来の仕事に取り掛からなければならないので、来月の遊びの予定まで頭が回らない。それで、考えておくと言っておいた。 それについて、彼は後に複数の友人宛てにメールで詳細を送って来た。 そしてこの土曜、メールは届いたか、それで来るのか、と聞いて来たので、ワタシはまだ考え中と答えた。 すると、実は僕の従兄も誘ってあるのだが、それならば君は来るか?と言う。 ワタシは質問の意味を図りかね、いやなんとなく言いたい事は分かるのだけれど気付かなかった振りをして、しかし貴方の従兄が来るか来ないかという事自体はワタシの決断には何の貢献もしない、と答えた。 ところが彼は更に、いやもし彼と君とが上手く行けば、「結婚」に到達するかも知れないから、どうだ、来るか?と続ける。 ワタシはその不躾な言い分に眉を顰め、今のところ結婚相手は探していないから、結構ですと答えた。 この段階で既に周囲のヴォランティアたちは、含み笑いというのか、おやおや全くコイツは何を失礼な事を言っているのだ的若しくは何やら雲行きが怪しくなってきたぞ的な薄笑いを浮かべていた。ワタシもこの会話を一旦止めて彼らの方へ歩み寄り、いやぁね何あれ?的な表情的コミュニケーションを取ったり、また初対面の幾人かに挨拶などしてみたりして、話を打ち切ろうと試みた。 ところが彼は更に追い掛けて来て、しかし僕の従兄と結婚すれば、君はこの国に一生住む事が出来るのだよ、いい話ではないかい?と言う。 ワタシはいよいよ気分を害し始めた。 ワタシがそんな事を必ずしも望んでいないかも知れないでしょう? ワタシは彼の方を見ずに、あしらう積りで言った。 すると、何、君はこの国にずっと住みたくは無いのか?(=住みたいに決まっている的ニュアンス)と言う。 もしこの国にずっと住みたいと思ったら、ワタシは自分で仕事をしながら住み続ける事が出来るのであって、何も他人の力を借りなくても良いのですし、またもしかしたらこの国に一生住み続けたいとは思っていないかも知れないので、そういう場合には余所の国へ移るかも知れませんし、何しろどっちに転んでもそれは貴方には知り得ない事でしょう?(=余計なお世話)とワタシは言った。 すると彼は何と、いやしかし、僕は君に「強制送還」には遭って欲しくないのだよ、と言う。 「強制送還」…? 誰が? 何故? 何の話? ワタシはそんな事の為に今この国に居るのではありませんよ!? すると、え、違うの?ダンナを探しているんじゃなかったの?と ワタシはここですっかりぶち切れて、公衆の面前ではあるが、しかしワタシ自身の名誉の為にも、言うべき事ははっきり言っておかねばならないと思ったので、この謂れの無い「強制送還を免れるべく将来のダンナを探している不法滞在中の外国人女」とでもいうような疑いを晴らすべく、声を上げた。 貴方は何か勘違いしていらっしゃるようですけど、ワタシは今のところ強制送還に遭うような違法行為は一切しておりませんので、おっしゃる意味が良く分かりませんし、それに貴方、そういう無実のワタシに対して今非常に失礼な事をおっしゃってますけど、一寸お口の聞き方に気をつけた方が宜しいと思いますよ。 という内容の事を、ワタシは極力丁寧に言った。 すると、直ぐ脇で聞いていた女性が、いや彼は本来とてもいい子なので、そういうつもりで言ったのではないだろうから、勘弁してやれ、と仲裁に入った。 彼はそこで漸く、ワタシが「怒っている」という事に気付いた様なのだが、しかし冗談交じりにへらへらとにじり寄りながら謝って来たので、ここでワタシは本気で憤慨しているという事を知らしめなければならないと思い、触るな、と彼に言い放ち、それから、ワタシは彼の事は良く知りませんが、しかし失礼にも程がありましょう、と彼女に言って、そこで会話を打ち切った。 名誉毀損も甚だしいと思ったのだけれど、過剰反応ではないですよね? しかしここの常連ヴォランティアたちは、この青年の失礼な言動に、何故だか随分寛大なのである。 ワタシはこう言っては難だが「馬鹿」の扱いが余り得意では無いので、彼らのように何事も無かったかのようにあしらったりする事が出来無い。ワタシを侮辱するなら、それなりの対応をしますよ、という態度をはっきり出さないと、却って舐められてしまうと思うのである。 それはワタシ自身の自信の無さなのだろうか。 そうは思っていないのだけれど、周囲の反応を見るにつれ、何やら腑に落ちない感が拭えない。 というか、そもそも彼に必要なのは、ヴォランティア活動やら他人の人生のお節介を焼いている場合ではなくて、とりあえずまともな仕事を見つけて自立する事ではないかと思う。 碌に勉強もしないでいつまでも親のすねかじりをやっておきながら、お姉さんの人生に口出しするなんてぇのは、百万年早い。身の程を知 というような癇に障る出来事以外は、この週末は割合と穏やかなものであった。 天気も暑すぎず涼しすぎず、中々具合が良い。 公園で語学の自習をしていると、どうやらその該当言語圏からの旅行者と思われるお嬢さんたちが手助けを買って出てくれるし、また買い求めたジュースの蓋が開けられないで苦労していると、見かねた奇特な青年が開けてあげましょうかと申し出てくれる。 この街も、それ程住み難い場所ではない、と改めて思う。
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