せらび
c'est la vie
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みぃ


2005年02月17日(木) オトコの匂いと三重武装

先日、ワタシときたら余程飢えていたのか、昔々のオトコが夢に出てきた。

あんまり生々しいので、夢の詳細については読者の皆様のご想像にお任せするとして、ここでは多くを語らないでおく。「お預け」にしてすいません(一応これでも嫁入り前の娘ですので)。

しかし何しろ鮮明な彼の「匂い」が記憶に残っていて、がばと起き上がって思わず赤面するような始末で、我ながら一体どうしたのだ、ええ、と問い質したくなるような、赤裸々な夢であった。

お陰ですっかり寝坊してしまった。「インキュブス」とか「スキュブス」とかいう、かつて教科書で見た単語が、思わず頭に浮かんできた。

なにやら慌しい朝であった。



昔のワタシは、今と違ってひょろひょろとしたオトコノコが好きだったので、今回夢にご登場いただいた彼も、少年のような細っこい成りをしていた。

彼は恐らく「ええとこのこ」だったのだが、「陸サーファー」でもあったので、格好良い車にサーフボードを積み込んで、ワタシの住む街の辺りにもよく遠征してきた。それで、二人は可愛らしくドライブデートなどもした事があって、今にして思えばなんとも微笑ましい限りである。

彼がどういう訳かワタシに関心を持っていたのは、人伝に聞いて知っていたのだけれど、なぜか当時のワタシには、彼とお付き合いをしようというような気が起こらなかった。

・・・何故かしら。(勿体無い。)

彼が「ええとこのこ」だったからか。それは中々有りそうな言い訳ではある。

それとも、ワタシ自身(のカラダ)に自信が無かったからだろうか。

十代半ばの頃のワタシは、それは今からしたらえらく勿体無い発想だけれど、自分の身体の発育に戸惑って、女性としての自分というのが受け入れ難い時期でもあった。だからもしそれが理由だったとしても、さもあらんという気がする。


しかし「その気」は無かった割りに、彼の身体から発する「匂い」が、ワタシは大好きだった。

野生のケダモノの匂いとか、酸っぱいイカの匂いとかでもなければ、お気に入りの香水とかいうのでもなくて、なんだか妙に甘い匂いがしたのである。

一体何の匂いなのか、ワタシには見当も付かないけれど、ひょっとするとそれはワタシが知らないだけで「ワキガ」というものだったのかも知れないけれど、いやそんな事はないと信じているけれど、なにしろワタシは、どういう訳だか彼の匂いに引き付けられていた。

少し大人になった今なら、馬鹿ねそれが「フェロモン」てやつの事よ、なんて含み笑いのひとつもしながら言うかも知れないけれど、当時の若くてうぶなワタシには、さっぱり見当も付かないまま、何だか知らないうちに吸い込まれるような、なんとも奇妙な感覚を味わっていた。


当時ワタシたちは、殆どグループでの付き合いの枠を出なかったのだけれど、その所為かどうか、彼は暫くすると遠くの国へ留学していった。

そのうちワタシは大学生になって、休みになるとあちらこちらへ旅行に出掛ける様な活動的かつバブリーな女子大生になった。そのうち、彼の住む街も訪れてみたくなった。

それである日彼に国際電話をして、一頻り近況を報告しあった後、ところで夏休みの旅の途中に一週間くらい泊めてくれないかしらとお願いして、上手い具合に承諾を得ると、のこのこと出掛けていったのである。のこのこ。


彼はある海辺の街に、男ばかり四人して、一軒家を借りて暮らしていた。真っ白い壁が、晴れ渡る空に良く映えていた。

この辺りは治安が良くないからひとりで出歩かないようにと、口を酸っぱくして言うので、専ら彼の運転で彼方此方連れて行って貰ったくらいで、だからワタシはこの街の地理を余り良く覚えていない。

彼は二階を親友と二人で共有していて、彼のスペースは部屋というより、仕切られただけのスペースといったようなところだった。窓際に丁度ベッドが納まるサイズの小部屋のような区画があり、そこをカーテンで仕切った手前には、居間のような区画が設けられていた。

ワタシはそのベッドのスペースがえらく気に入って、そこへ寝っ転がっては、窓から見える星空を眺めたり、暗い通りを行き来する薬物販売人の取引の様子をこっそりと覗き見たりして、楽しく過ごした。(顔を出すと撃たれるというので、そのうちこれは止す事にした。)

ワタシたちは寝っ転がって、アルバムを見たりそれまでのワタシの旅の話をしたりして、夜更けまで過ごしていたのだけれど、まあなにしろそう近くにくっ付いて横になっている訳だから、あの懐かしい「匂い」がすぐそこにあって、ああなんだかどうしたらいいのなんて思っているうち、あれよあれよという間に色々な事になってしまって、気付いたらそんな事になってしまっていた。


(なんだ、だったらもっと早くやっといても良かったんじゃないの?)

などという悪魔の声が聞こえる。今のワタシならそう思う。

若いって、なんだかじれったい。


その家に居候している間、彼の同居人たちは、あの二人は一緒のベッドで寝ているらしいぞとか友達とか言ってるけどそんなの信じられるかとか、白熱して色々と噂をしていたらしいが、そのうち彼の親友が口を切った。君は彼とセックスをしたのか。

余り唐突で、直接的な質問なので、まだ若くてうぶなワタシはつい、してない、と答えてしまったが、まあ誰も信じなかっただろう。



彼のテクニックだとかについての詳細は、敢えてここでは触れないが、ただひとつだけ気になった事がある。

その街は気候がとても温暖なので、彼は所謂「バミューダパンツ」というショートパンツを穿いていたのだけれど、実はその下にもう一枚ショートパンツ(所謂「ボクサーショーツ」というやつ)を穿いていて、そして更に所謂下着の「ブリーフ」というやつも穿いていた。

ワタシは、このクソ暑いのにどうして三枚も穿いているのだろう、**こが蒸れないのかしら、などと思ったのだけれど、その事に付いては聞けずじまいで、その街を後にした。


それから十年以上が経って(いやだわ、時代を感じる)、ワタシは全く別の街で、全く別のオトコノコが、同じように三枚のパンツ類を穿いているのを目撃する。

その彼は、暑いからと上半身裸でいたのだが、下半身の防御は些か過剰気味という、何やら解せない状況であった。

まさか流行っているのかしら。いや、ワタシの知る限りでは、どちらかと言うと少数派のような気がするけれど。寧ろ一枚しか穿かないで、腰掛けた途端「あらねずみさんこんにちは」というのだっているというくらいなのに。

ワタシは、まさか同じ匂いがしやしないかしら、などと勘繰って、思わず彼の傍に擦り寄って、匂いを嗅いでしまったくらいである。


匂いはしなかった。


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