せらび
c'est la vie
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みぃ


2005年02月15日(火) 蟹座の気違い男、その八

何とかプレゼンテーションもやり遂げて、家に帰る日が来た。

その間ワタシは、次に引っ越す先の同居人に連絡を取って、実は事情が変わって身の危険があるものだから、今直にでも引っ越したいのだけれど、と相談した。しかし月末までは彼の同居人がまだいるから、直という訳にはいかないと言う。

しかし彼は良い人だった。そういう事情なら、手付けに貰った金は返すから、直に入れるアパートを探したらいいと言ってくれた。

そこでワタシは、また新たに部屋探しを始め、偶々この住む予定だったアパートの近所に空き部屋広告を見つけた。そこにはまだ越して来たばかりだという二ホンジン女性が住んでいた。

これがまた、稀に見る挙動不審な蟹座のおねーさんで、人の言う事を何度も聞き返したり、既に決めた事をまた何度も繰り返して質問したりするので、交渉成立まで余計な時間が掛かってしまった。何やら嫌な予感がしたが、しかし家賃が安かったのと、直に入れるという事で、ワタシはその他の要素は見なかった事にして、即決した。

ちなみにワタシは、この不気味な蟹座のおねーさんのアパートには、一ヶ月程住んだだけで、直また引越しをする羽目になる。


兎も角、次の行き先を決めたワタシは、家に帰ると先ず三日後に引越し出来るよう、引越し屋の手配をした。そして悟られないよう出来るだけ静かに、荷物の梱包に取り掛かった。

既にワタシは、引越しだけはもう随分数をこなして来たから、大体二日もあれば全ての荷物をまとめられるようになっていたし、荷解きも大体三日もあれば良い。ダンボール箱も全部取ってあるから、甚だ不本意ではあるものの、いつでも夜逃げは決行出来る。

しかし今回は、逃げるとは言っても、部屋と建物の鍵については、返そうと思っていた。返すのなら、引越し日を早めた事は、いつかは言わなくてはならないだろう。

それにインターネット回線のルーターが彼ら夫婦の寝室にあって、ワタシの部屋とはコードで結ばれているから、それを外して貰って、コードを引き上げなければならない。

考えた末、ワタシは奥さんにだけ、引越しの日程を知らせる事にした。

そこで、居間に置いてある、奥さんがいつも使っているコンピューターのキーボードの下に、メモを残しておく事にした。話したい事があるので、良かったらメールを下さい、と書いた。

翌日、彼女からメールが来た。

ワタシは、まず彼女が居ない隙を見計らって、ダンナがワタシに喧嘩をしに帰って来た日の一部始終を書いて、そういう訳で何をされるか分からない人と一緒に生活は出来ないから、引越しを早めて密かに出て行く積りでいる、と書いた。そこで、奥さんに鍵とネットのコードの件について協力を仰いだ。

彼女の返事は、こういう事態になったのは自分の不行き届きの所為であるから、申し訳無い、しかし彼も貴方の事を心配していたから彼是考え過ぎる結果になってしまったので、悪気があった訳ではない事を分かって欲しい、とあった。

これは、ワタシの事を心配していたというより、寧ろ自分が嫌われたのではないかという不安から来る心配では、と思うけれども、兎も角彼女と連絡が取れた事により、ワタシは全くの「夜逃げ」という後味の悪い思いを少し軽減する事が出来たので、とりあえずほっとした。

当日は、同居人が全て出払った時間帯を見計らって、予定通りに済んだ。翌日には鍵も返して、ワタシは漸く束の間の安堵感を味わう事が出来た。

つづく。


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