Mako Hakkinenn's Voice
by Mako Hakkinenn



 厳しい立場に立たされた井出有治
2006年04月26日(水)

 先週末に行われたF1第4戦サンマリノグランプリ決勝の1周目で、トロロッソのクリスチャン・アルバースとスーパーアグリの井出有治が接触し、アルバースのマシンは5回転しながらコースオフし、さらにひっくり返った状態でグラベルに落下するという大きなアクシデントに見舞われました。幸いアルバースに怪我はありませんでした。
 一方の井出も接触のあと左フロントのサスペンションがダメージを受け、その後リアサスペンションにも問題が発生してリタイアに終わりました。
 両者は審議対象となり、レース後スチュワードによる事情聴取が行われましたが、井出に対しての戒告処分のみにとどまり、次戦のヨーロッパグランプリでは、井出はペナルティを受けることなく、予選で勝ち取ったそのままのポジションからスタートできることになりました。

 アクシデントはスタート直後のオープニングラップ、ビルヌーヴシケインを抜けていく途中で起こりました。最後尾だった井出が前をゆくアルバースを追い抜こうとしてアルバースのイン側に入り込みますが、アルバースがレコードラインを維持したままイン側に寄ってきたため、アルバースの右リアタイヤが井出の左フロントタイヤに乗り上げ、そのはずみでアルバースのマシンは宙を舞い、5回転しながらコースオフし、最後は裏返しのままでグラベルに止まりました。

 このアクシデントについて、アルバースは当然のように不満が爆発し、「スーパーアグリのドライバーたちはレースで僕らを押さえるため、スタートで僕らの前に出ようとしてあまりにもアグレッシブな動きをしすぎる。これまでもそうだった。彼らはリスクを犯しすぎるよ。今日はそれがどれだけ危険なことになるのかがはっきりした。こんなやり方は僕には理解できない。」と井出と佐藤琢磨を激しく非難しました。琢磨はこのアクシデントに直接関わっていなかったのですが、2人はレース序盤のアクションが攻撃的かつ野心的すぎると語っています。

 一方、井出は「第2シケインの進入で僕がアルバースの内側にいて、彼のほうが少し前にはいたんですが、ちょうどこっちのフロントタイヤが彼のマシンのリヤタイヤの前に入り込んでいる形。僕的には並んで立ち上がる感じで勝負する状況だと思ったんだけど、結果的に彼はレコードラインを守り続けたので、僕のフロントタイヤに向こうのリヤタイヤが乗り上げる形で接触してしまいました。彼の気持ちとしては自分のほうが前にいるから引いてもらいたかったみたいですが、僕は僕でそこで無理に前に出ようとは思わなかったけど、あそこで引く状況でもなかったので……」とコメントしていました。

 コントロールタワーでの事情聴取では、お互い良くあるレーシングアクシデントということで険悪な雰囲気になることはなかったようですが、井出はスチュワードから「確かに内側にいるのは分かるけれど、半分前にいるクルマがイン側にクルマ1台分明けてくれるとは思わないほうがいい」とアドバイスされたそうです。

 井出はここ4戦まで、マシントラブルなどにより十分なテストを行うことができず、マシンに慣れるための機会を十分に与えられないと言う状況で初めて走るコースでのレースを余儀なくされているわけですが、同じマシンに乗る佐藤琢磨と比べてレースタイムが2〜3秒以上も遅くミスも多いため、海外の一部マスコミやF1関係者の間で、さらにはスーパーアグリのチーム内でも井出のパフォーマンスを疑問視する声が囁かれており、その立場はサンマリノグランプリ開幕前ですでに厳しいものでした。
 しかし、汚名返上の機会として与えられるはずだったグランプリ直前のシルバーストーンでのテストでも、井出はマシントラブルのため走り込むことができず、またもぶっつけ本番となってしまったサンマリノグランプリで今回のアクシデントを起こしてしまい、状況はますます悪化してしまいました。

 そして、井出の立場をさらに厳しいものにしてしまったのが、井出のアクシデント後の態度でした。井出はアルバースに対して謝罪の言葉は一切なく、「アルバースは単純に彼は僕が引くだろうと決め付けられていたみたい。ちょっとナメられてたのかな?」と語り、自身の正当性を主張していました。

 この井出の振る舞いに対し、元ワールドチャンピオンのニキ・ラウダが「FIAは井出に対するスーパーライセンスの発給を考え直したほうがいいんじゃないか。」と彼のミスを認めない姿勢を厳しく批判しました。
 さらに伝説のドライバー、スターリング・モスも「FIAはもっと下手なドライビングについて出場停止など厳しい処分を行うべきだ。無謀なドライビングをした井出に対しては、処分があって然るべきだ。悲しむべきは、F1ドライバーのレベルが下がってしまっていることだ。F1という最高峰のカテゴリーがダメなら下はもっとダメになる。今カートレースを戦う若手ドライバーの中には、他のマシンを無理矢理押しのけるような乱暴な行為をするものがいる。早く何か手を打たないと、レースにふさわしくないドライバーばかりが横行するようになってしまうよ、」と持論を展開していました。

 逆にアルバースの方は、レース直後の激しい怒りから一転して「確かに井出は今回の行為について反省すべきだけれど、これでスーパーライセンスを取り上げるとかいう議論は間違っていると思うな。どんな新人だってミスをすることはあるんだ。でも若い能力にはもう一度チャンスが与えられるべき。井出だってもちろんそれに値するよ」と、寛大な発言で井出を擁護する発言をしています。ちなみにアルバースはまだ27歳名のに対し、井出はすでに31歳の遅咲きルーキー。

 僕は個人的に今回の一件は、先の24日付のVoiceでも述べたように、井出の方に否があったと考えています。あの状況では、井出はアルバースのオーバーテイクを断念し、外側に進路を取るか、あるいは減速して追突を避けるべきだったと思います。井出自身も自分のF1ドライバーとしての立場が非常に厳しい状況であることはわかっているはずなので、何とか良い結果を出してアピールしたいと焦っていたのだと思いますが、だからこそ無理して最悪の結果を招いてしまうよりは、冷静になって、まずは完走を目指して欲しかったですね。

 井出は十分走り込むことができないままでのレースを余儀なくされているから、今の状況でミスが多いのは仕方がないという同情の声も中には挙がっているようですが、やはり何度も言っているようにF1の世界は結果がすべてですから、チーム内の事情などレースでは関係ないんですよね。
 スーパーアグリは来週のシルバーストンテストがキャンセルになり、またしても井出は貴重なテストのチャンスを失っってしまうことになったわけですが、次戦ヨーロッパグランプリに向けて、気持ちを切り替えて欲しいものです。



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