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■ いわゆるジャズ、ジム・ホール
2006年04月12日(水)
LPレビューも今回で4回目。今回も「CafeM−NEST」お薦めのLPをご紹介していきたいと思います。前3回はジャズのLPをご紹介してきましたが、今回もジャズです。それも非常にわかりやすいスタンダードなジャズです。
ジム・ホール「CONCIERT」 (1975)
このLPは父が所有していたLPなのですが、幼い頃からこのLPジャケットを見るたびに、アステカ遺跡の石像と思われる印象的なブルーに吸い寄せられるような独特の存在感を感じていました。
ジム・ホールは1930年12月4日にニューヨーク州バッファローで生まれ、幼少期はコロンバス(ニューヨーク州)とクリーブランド(オハイオ州)で過ごしました。 母はピアノ、祖母はバイオリン、伯父はギターを演奏し、小さい頃から音楽に親しんでいたようですが、10歳のクリスマスに母からギターをプレゼントされ、真剣にギターに取り組む様になります。
13歳でクリーブランドの地元グループの一員として既にプロ活動を開始。チャーリー・クリスチャンの影響をかなり受けていたようです。ハイスクール卒業後はクリーブランド音楽院に進み、クラシックの作曲を学びますが、修士号課程の半ばにて退学し、ギタリストの道を志してロサンゼルスに移り住みました。ロスでは中古楽器店で働きながらクラシックギターを学び、25歳の時にチコ・ハミルトンに推薦されてチコのバンドに1年半在籍します。これがジャズギタリストジム・ホールの誕生でした。 27歳でジミー・ジェフリーのトリオに参加し、ベースレスの変態的編成に到達。そして初リーダーアルバムを録音します。その後は南米公演などに参加し、活動拠点を西海岸から東海岸に移してからはソニー・ローリンズにバンドへの参加を要請され、彼の方法論に影響を受けます。1960年から65年まではツアーやレコーディングを積極的にこなし、尋常でないほどのアルバムに参加しました。
こうして彼の才能は急速にジャズ関係者や世界中のジャズファンの間に知れ渡り、以降精力的にライブやレコードリリースを続け、様々な賞を受賞し、超一流のジャズギタリストとしての名声を得ます。75歳になった現在も現役で活躍しており、今もなお素晴らしい才能を発揮し続けています。
さて、今回ご紹介するアルバム「CONCIERT」は、1975年にリリースされたもので、ジャズレコード史上空前のヒット作で、世界的に大ブレークしたそうです。ジム・ホールはこのアルバムの成功をきっかけに、次々と新録音に取り込み人気アーティストとなりました。 収録曲は「YOU'D BE SO NICE HOME TO」「TWO'S BLUES」「THE ANSWER IS YES」「CONCIERT DE ARANJUEZ」の4曲。参加アーティストはジム・ホール(ギター)、ローランド・ハナ(ピアノ)、ロン・カーター(ベース)、スティーヴ・ガッド(ドラムス)、チェット・ベイカー(トランペット)、ポール・デスモンド(アルトサックス)の6人。
1曲目の「YOU'D BE SO NICE HOME TO」は、1943年にコール・ポーターが映画音楽として作詞作曲したジャズ・ヴォーカル屈指の名曲で ヘレン・メリルの「♪ユッビッソ〜」というミディアム・テンポに乗ったスインギングでハスキーなヴォーカルで、日本のジャズファンならずともCMにも登場しているとても有名な曲です。しかしジム・ホールの「CONCIERT」では、主旋律をジム・ホールのギターが奏でて、かなりハイテンポなスウィングジャズとしてアレンジされたインストゥルメンタルバージョンで収録されています。
A面に収録されている「YOU'D BE SO NICE HOME TO」「TWO'S BLUES」「THE ANSWER IS YES」は、今回の題名にあるように、“いわゆるジャズ”と言える、僕的には非常に聴き慣れたジャズであり、渋くてカッコイイのは分かり切っているので、安心して聴くことができます。 “いわゆるジャズ”といわれてもぴんと来ない方のために、敢えて擬音を駆使してわかりやすく説明するならば、ドラムスが軽快にツーツクツーツクとハイハットを鳴らしながらスネアをドゥラタタ〜ンと軽快に振動させる中、ウッドベースがボンボンボンボンと規則正しいベースラインを辿り、ジム・ホールのクラシックギターのナイロンの弦がマイルドなトゥルットゥットゥ〜という主旋律を奏で、そこにピアノのポロンポンポ〜ンという単音がからみ、さらにサックスのファファ〜ファファ〜ンという音色とトランペットのパラッパッパ〜という音色が割り込んで来るという、おそらく多くの日本人がジャズと聞いて連想するであろうポピュラーな演奏であるということです。
しかも展開も実に典型的で、ドラムスとベースがビートを刻む中で、まずはギターがリードを取り、途中でピアノのソロが入り、次にサックスのソロになり、続いてトランペット、さらにはベース、そして最後はドラムスのソロと交代でソロパートをこなし、再び全パートで合奏するという、それぞれのパートの聴かせどころをちゃんと用意しているのです。日本の学生さんが結成しているジャズ研究会や、日本のジャズ喫茶などで演奏されるジャズ演奏の多くはこのアルバムの影響を受けているのではないかと思われるほど、とても親しみが持てるジャズだと思います。
さて、レコード盤をひっくり返してB面の「CONCIERT DE ARANJUEZ」、日本では「アランフェス協奏曲」として知られているようですが、この曲はB面全面を占めているのですが、A面の3曲とはガラリと印象が変わります。最初のギターのイントロは「必殺!仕事人」の「♪パラパ〜パ〜ラッパ〜パラパラ〜パラパ〜」というあのメロディに非常に酷似したメロディが流れ、サックスもトランペットもベースもそのメロディをイントロで奏でるものですから、「必殺!仕事人」はこの曲をパクったのではないかと思ってしまうほどです。「必殺!仕事人」に比べてかなり音程は低いですけどね。雰囲気的には「キル・ビル」に流れてきそうな雰囲気の、荒野の乾いた砂埃の中での決闘シーンなどがしっくりきそうなイントロです。 そのイントロの後、普通にミドルテンポのドラムが始まり、曲はしっとりとしたバラード調に展開していきます。全体的にとても哀愁を帯びています。
僕個人的には、ジャズを初めて聴く人にはこのアルバムをお薦めしたいですね。過去3回でご紹介したチック・コリア、MJQ、ウェザーリポートはいずれも、ジャズの中ではかなりコアであまりにもレベルが高すぎるので、まずはジム・ホールの典型的なジャズでジャジーな雰囲気を満喫して耳を慣らし、それから徐々にコアな世界に踏み込んだ方がいいような気がします。そう言う意味でこのアルバムは、ジャズの入門編としては最適の1枚だと思います。
ジム・ホール「CONCIERT」をお送りしました。
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