Mako Hakkinenn's Voice
by Mako Hakkinenn



 F1の不吉な12年周期
2006年01月12日(木)

 1950年に初開催されたF1グランプリで初めてドライバーが命を落としたのは、1958年フランスグランプリで死亡したイタリア人ドライバー、ルイジ・ムッソでした。以来、1994年サンマリノグランプリで死亡したアイルトン・セナまで、F1グランプリ中に18人が命を落としています。そして1958年から1982年までの25年間は、F1グランプリは年に一人は死ぬ時代が続いていました。

 中でもF1界でもっとも大きな損失と言えるのが、1970年のイタリアグランプリで死亡したヨッヘン・リント、1982年にベルギーグランプリで死亡したジル・ビルヌーヴ、そして1994年にサンマリノで死亡したアイルトン・セナでした。

 ヨッヘン・リントは1964年にデビューし、69年ロータス移籍後の初優勝で花開きます。翌70年は5勝を挙げてポイントリーダーとなりますが、イタリアグランプリの予選初日のパラボリカでコントロールを失いガードレールにクラッシュし、命を落としてしまいます。この後、ジャッキー・イクスのみが逆転のチャンスを持っていましたが、アメリカグランプリで4位に終ったことからリントのチャンピオンが確定しました。死後にチャンピオンとなったのは歴代でリントのみです。

 ジル・ビルヌーヴは現BMW・ザウバーのジャック・ビルヌーヴの父親で、チャンピオンになったことはありませんでしたが、1ラップへの情熱とその熱い走りで人気を拍し、フェラーリのエースとして確固たる地位を得た“記録よりも記憶に残るドライバー”と言われています。彼は1982年のベルギーグランプリ(ゾルター)で、予選中に事故死してしまいましたが、生きていれば1度はチャンピオンになっていたかもしれないドライバーでした。

 1982年のジル・ビルヌーヴ以降、F1のモノコックが改善され、85年にエリオ・デ・アンジェリスがポール・リカールでのテスト中に事故死しているものの、1994年までグランプリ中の死亡事故は起こりませんでした。そのためF1では“モノコック神話”が生まれ、F1でドライバーが死亡することはもうないだろうと言われ続けてきました。

 しかし、1994年のサンマリノグランプリで、その神話はもろくも崩れ去ってしまいました。予選中にルーキーのローランド・ラッツェンバーガーが死亡し、そして決勝レースでは3度のチャンピオンに輝いた英雄アイルトン・セナが命を落としてしまったのです。その後、F1の安全性が大幅に見直されて進化し、以来現在まで死亡事故は起こっていません。

 ところが、F1には不吉な“12年周期”というものが存在しています。

 F1グランプリで初めて死亡事故が起こったのが1958年のムッソ、そしてその12年後の1970年にリントが死亡、その12年後の1982年にビルヌーヴが死亡、その12年後の1994年にセナが死亡……このように、12年周期で大きな死亡事故が起こっているのです。

 そして、今年2006年は、セナが死亡してから12年目のシーズンを迎えます。

 現代のF1マシンやサーキットは安全性が最優先され、大きな事故を起こしてもドライバーが命を落とす最悪なケースには至らないと言われています。しかし、それでも2004年アメリカグランプリで起こったラルフ・シューマッハの事故のように、ドライバーを危険にさらす危険な事故は現在でも起こりえます。そして幸いにもこれまで死亡事故は起こっていませんが、ドライバーが死ぬことはないと言う保証などまったくないのです。

 さらに不吉なことに、今シーズンの構図は、94年に死亡したセナの時と状況が似ているのも気がかりです。まず大きな点は、マシンのレギュレーションが大幅に変更されたという点。94年にはそれまでのハイテク装置がすべて禁止され、大きな事故が多発しました。そして今シーズンはエンジンに規制がかけられ、V8エンジンに統一されることになりました。そのためマシンデザイナーたちは、エンジンがパワーダウンした分を空力で補い、よりエアロパーツを進化させてスピードを追求することが要求されるようになりました。こうした大幅なレギュレーション変更が成された年には、必ず大きな事故が起こるという逸話がF1には存在しています。

 そしてもう一つは、チャンピオンシップの勢力図。昨年ミハエル・シューマッハとフェラーリは、若手ドライバーの台頭によって王座から陥落し、今シーズンはシューマッハ自身も引退を賭け、背水の陣でシーズンに臨むことから、94年のアイルトン・セナの状況を思い出さずにはいられません。
 セナは94年シーズン、当時最強と詠われたウィリアムズ・ルノーに移籍し、開幕前までタイトル獲得の大本命とされていました。しかし、世代交代が進みつつある状況下で、当時新鋭だったミハエル・シューマッハの台頭によって開幕2戦を奪われ、第3戦サンマリノで命を落としてしまいました。

 昨シーズンにフェルナンド・アロンソにタイトルを奪われたミハエル・シューマッハの今シーズンに賭ける意気込みは、今まで以上の相当なものであることは想像に難くありません。本人自らが初めて引退という言葉を口にしたように、世代交代が本格化していく中で、再び王座に返り咲くために並々ならぬ気合いが入っているものと思われます。またフェラーリとしても、何としても序盤で結果を出してシューマッハの引退を思いとどまらせるために、かなり突っ込んだマシン開発をしてくることでしょう。

 若い世代とシューマッハの熾烈なタイトル争いが予想される今シーズン、激しいバトルを展開しつつ、安全でクリーンな戦いを繰り広げ、すべてのドライバーが怪我なく無事にシーズンを終えてくれることを願うばかりです。そして今度こそ、不吉な“12年周期”という悪いジンクスから脱却して欲しいものです。

 シューマッハも今年はあまり気合いを入れすぎず、若い世代に胸を貸す気持ちで、タイトル争いにこだわらずに、レースの1戦1戦をリラックスした気持ちで楽しんで欲しいものです。まあ、そんなミハエル・シューマッハなど見たくないと言う人がほとんどでしょうけどね……。



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