ぼくたちは、おなかの中に子どもがいるときに名前をつけて呼ぶことにしています。3人目の子どもは、「しーちゃん」と呼ぶことにしました。 産まれるまでその名前で呼びます。例えば、妻が疲れておなかがいたくなったときは、 「しーちゃん、だいじょうぶたよ。ちょっと、疲れただけだからね」と言ったりします。 また、子どもたちは、 「しーちゃんが生まれたら、おむつをかえてあげて、抱っこして、散歩に連れて行ってあげる」などと言っています。 半年以上もの間、家族でその名前で呼んでいると、産まれて名前をつけてからも、その呼び名を変えることはできなくなってしまいます。かと言って、本名には産まれたときの親の思いもこめていますので、呼び名とはまったく別の本名になります。 ですから、子どもたちはそれぞれ、本名と呼び名の2つの名前を持つことになります。家にいるときには、ほとんど呼び名で呼びあっていますが、保育園に行くようになると、本名も必要になってきます。それでも、保育士さんたちには、呼び名があることを伝え、呼び名で呼んでもらうようにしています。 つまり、「しーちゃん」は、「はやししおり」といった名前になるとは限らず、「はやしはなこ」になったりします。保育士さんたちには、「しーちゃん」と呼んでもらいますが、友達の親や、担任以外の保育士さんの中には、「はなこちゃん」などと本名で呼ぶ人もいます。 本人たちは、このような状況をどうとらえているかというと、驚くほど的確に、場面によって使い分けています。 自分のことは、「しーちゃん」と言いますが、例えばはじめて会った人に 「お名前は?」とたずねられれば、 「はやしはなこです」と答えます。そして、「しーちゃん」と呼ばれても「はなこちゃん」と呼ばれてもふりかえることができるのです。
保育園のクラス名は、動物の名前になっています。話がややこしくなるのは、クラス名と本名に同じものがあって、しかも違うクラスに所属していたりする場合です。 例えば、本名が「はやしいるか(仮名)」だとします。そして、保育園には「いるか組」があり、しかし、「いるか君」が「くま組」だとします。 すると、「しーちゃんは、本名がいるかだが、いるか組ではなくくま組です」ということになります。しかも、きょうだいが「いるか組」だったりすると、こんなことになってしまいます。 「しーちゃんは、本名がいるかだが、いるか組ではなくくま組です。弟は、もーちゃんで、本名はたかしですが、いるか組です」 こうやって、事態は混沌としてくるのですが、これは、実際にあったことなのです。
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