今日から有島武郎「小さき者へ」 10分程ですぐ読める。 子供に母を失うという不幸を背負って前途は暗いが 恐れてはならぬ。恐れない者の前に道は開ける。 と励ます有島の最後は、愛人と心中だ。
有島の情死を調べてみると、 興味深い記述があった。 愛に苦しむ裏側にはナルシズム。 いかにもインテリらしい。
「惜しみなく愛は奪うといってみたところで、 実際には少しも奪いはしない」と 語り、 実質的にこれまでの楽観的な人生観を放棄している。 自己を囲繞する人間たちの絶対他者性に突き当たり、 自他融合の自信が揺らぎ出すと、彼は深刻なスランプに陥り、 作品が書けなくなった。 彼の創作意欲は、自分を全肯定しているときにのみ、 活発に活動するのである。
だが、波多野秋子に強いられて情死を決意した瞬間に、 自他融合の感覚がよみがえり、 つまりナルシシズムの感覚がよみがえり、 彼は寂光土にあるような安心を感じたのだった。 彼の胸からは「小さき者へ」に記したような 子供達への哀憐の情はすっぽり抜け失せ、 「死を享楽する」気持ちが優位を占めた」
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