雑記目録
高良真常



 星への旅 (本)

星への旅
   吉村昭
  新潮文庫



鉄橋 / 少女架刑 / 透明標本 / 
石の微笑 /星への旅 / 白い道


若者達がいた。
彼らは、同じ様な一日の繰り返しという“日常”に飽きていた。
そんな日常を繰り返すだけの人生に疑問と諦めを抱いた若者達は、この“日常”を終わらせようと、死地へ向かい、旅をする。


主人公もそんな若者の一人だった。
けれど、彼は死地へ近づく、その日が来るにつれて不安や恐怖を抱くようになる。逃げ出したくなるような、そんな衝動にかられる。
だが、仲間達の手前や、それに自尊心が、逃げることを不可能にする。
手を布でつなぎ、高い崖から落ちる瞬間、彼等はどうするのか――……。


透明な響きのあるタイトルと打って変わって、乾燥し擦り切れた雰囲気のある短編集。
若者の集団自殺を描く表題作もいいのですが、私は収録作の『少女架刑』が好きです。
これは、一人の少女の遺体が、医学解剖され焼かれ、骨壷に入れられるまでの経過を追っていく話なのですが、特異な事は、その経過が、死んだ少女自身の“一人称”で語られる事でしょう。少女は何処からともなく自分が運ばれ、解体される様子を見ていて、それに対しての羞恥や回想を語る。全く特異な話ですが、ひょっとすると、この短編集の中では一番透明な話かもしれない……と、そう思うのです。
続く『透明標本』は、透明に輝く人体模型を作る事に執念を燃やす男の話なのですが、これが『少女架刑』とも微妙にリンクしています。

一度味わうと、強烈なわけでもないのに不思議に忘れられない、そんな著者の短編集。
ちなみに、『星への旅』は太宰治賞を受賞しています。












2004年09月26日(日)
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