Rocking, Reading, Screaming Bunny
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Far more shocking than anything I ever knew. How about you?


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*名前のイニシャル2文字=♂、1文字=♀。
*(vo)=ボーカル、(g)=ギター、(b)=ベース、(drs)=ドラム、(key)=キーボード。
*この日記は嘘は書きませんが、書けないことは山ほどあります。
*文中の英文和訳=全てScreaming Bunny訳。(日記タイトルは日記内容に合わせて訳しています)

*皆さま、ワタクシはScreaming Bunnyを廃業します。
 9年続いたサイトの母体は消しました。この日記はサーバーと永久契約しているので残しますが、読むに足らない内容はいくらか削除しました。


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2008年01月04日(金)  music fills me up

というわけで。明け方から坂本龍一を聴いたのである。久々にイヤホンで耳にぶっこんでみたのである。そしたらもうこれが。
「愉悦」とはこれですね、という感じ。
思わず、フローリングの床にバレエの開脚しちゃったほどの快感で。

洋楽しか聴かないと思われがちで、実際、聴いている9割以上が英米だが。私の中にがっしりとコアとして食い込んでいるのがYMOだと思う。
初めて'Rydeen'を聴いたのは14歳。変な音楽だなと思った。軽くてちゃらくてせわしない。馬が走っているようなリズム、馬の嘶きのようなひらひらとしたシンセサイザーの高音。
YMOを聴いているのが、男も女も何故か、地味で人づき合いが下手でぱっとしない人種ばかりなのも気になった。それを言ったらYMO自身も全くかっこよくなかった。
私がそれまで3歳からずっと聴いてきた、ビートルズS&Gをはじめとする洋楽の中にある美しい旋律、甘いときめき、切ない涙、などといったベーシックな感動が、そこには一切なかった。
「デジタル」ということに関しては最初から何の抵抗もなかった。それは「枝葉」でしかない。結論としてテクノ及びテクノポップには全く興味がないが、YMOだけは違った。
欧米人のストレートな「美しいものへの賛美」への挑戦かと思うほどに、YMOは全く美しくなかった。うつむいた、視野の狭い矮小な個人が、閉めきった自室から一歩も出ずに、大陸や宇宙に思いを馳せているような音楽を、私は初めて聴いたんだと思う。つまりそこには、通常の接触によるコミュニケーションが欠落していた。それが、何とも快感だった。

その中で、宇宙側に居を据えたのが細野晴臣だと思ったし、高橋幸宏は自室から出ない気配があった。しかし坂本龍一は一番俗っぽくて、何とか他人に擦り寄りたいように感じた。(全て音の印象の話)
彼は愛されたがっている、賞賛されたがっている、少しも解脱していないし、いつまでも安心出来ない。世の中には、どんなに素晴らしいことを成し遂げても、いつまでも完全には自信が持てないタイプというのがいるのであり、坂本龍一の音は私にはまさしくそう聴こえる。いつまでもどこかで気が小さく、度量の狭さがある。それが聴いている個人――殆どが自分自身に完全に満足できない個人(まともな人間ならそれが普通だ)―――にアピールするのではないか。

その坂本の突出した珠玉の一枚が「音楽図鑑」だと思うし、中でも'Tibetan Dance'は最高傑作だと思う。初めて聴いた瞬間から血が沸き立った。何の理解力も要らない、単純な、原始的な愉悦だ。
'Paradise Lost'は、歌が抜けている快感をおぼえる。ここには言葉があるべきなのだ。バックでは低くラジオで人が喋っているような音が流れ、メインのメロディは人が歌っているようで、何かを訴えたいかのように切なく同じフレーズを繰り返す。その美しい異国語が解らない、きれいな明るい、諦念がある。
「マ・メール・ロワ」は素晴らしい。無加工な自然の説得力を、電子音楽が見事に表現している。中間部の急にやわらかくなる展開は、目に薄い光が降ってくるようで、宗教的とすらいえる。

・・・ああ、ダメだわ。こんなに官能的に満足しちゃっては。これで充分エクスタシーに達しちゃってるじゃないか。
せっかくYMOに喚起されたエロが、坂本龍一で昇華では。結局おうちから一歩も出ないで終わってしまう。
ちなみにまだ年が明けてから一歩もうちから出ていない。

蛇足だが。「音楽図鑑・完璧盤」(というのがあるのを今回初めて知った)にボーナスで加えられているのラスト2曲はまさしく「蛇足」だ。「マ・メール・ロワ」の厳かな感動がぶち壊しである。あの2曲は元々シングルとしてアルバムについていたものだが、だからといって一緒にしないで欲しい。私は、全体のトーンがきれいに一定したアルバムが好きなのだ。「音楽図鑑」は一個の球体のように完成しているのに、これぞ「玉に瑕」だ。

music fills me up (音楽で充たされる)



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