Rocking, Reading, Screaming Bunny
Rocking, Reading, Screaming Bunny
Far more shocking than anything I ever knew. How about you?


全日記のindex  前の日記へ次の日記へ  

*名前のイニシャル2文字=♂、1文字=♀。
*(vo)=ボーカル、(g)=ギター、(b)=ベース、(drs)=ドラム、(key)=キーボード。
*この日記は嘘は書きませんが、書けないことは山ほどあります。
*文中の英文和訳=全てScreaming Bunny訳。(日記タイトルは日記内容に合わせて訳しています)

*皆さま、ワタクシはScreaming Bunnyを廃業します。
 9年続いたサイトの母体は消しました。この日記はサーバーと永久契約しているので残しますが、読むに足らない内容はいくらか削除しました。


この日記のアクセス数
*1日の最高=2,411件('08,10,20)
*1時間の最高=383件('08,10,20)


2007年08月14日(火)  The Treasure

サマセット・モームの短編集「ジゴロとジゴレット」読了。初めて知ったが、「ジゴロ」という言葉は本来、酒場などで金持ち女に金をもらってダンス相手をする男をさすらしい。
モームはイギリス人では一番好きな作家だ。この短編集には「三人の肥った女」という作品があって、40代の金持ち女性3人(でぶ)が日々体重を落とすことに必死になっている話だが、ここに描かれている女性たちが実にいい。多くの男性作家の描く女性はつくりもので、特にミステリーなどは「線が細く体が弱くすぐに気絶する美人」、「健康的で男勝りに気が強い聡明な美人」、「明るく素直ですぐふくれる若い庶民的な美人」など、「お化けのタイプ」の陳列かと思うような類型が多いが。
モームの描く女性たちは美人も不美人も知的も愚鈍も老いも若きも全て見事に生き生きとしている。ちゃんとした等身大の女だ。
勿論男もそうで、だからモームの書く話は面白い。たいした事件が起こるわけではないのだ。本来は食べることの大好きな三人の肥った女が必死でダイエットにいそしんでいるところに、痩せ過ぎで医者にもっと食べろと言われている女がやってきて、しばらく一緒に滞在することになる。それだけのことが、ミステリーそこのけに「一体どうなるんだろう?」と先の展開を期待させる話になる。

モームのもっとも素晴らしいところは、人間の本性をそのまま描いているのに、その筆致があっさりとしていて、少しも暗い影を感じないことだ。
例えばパトリシア・ハイスミスは、容赦なく人間を描いてしまう。その徹底的なやり方は「無礼」と表現したいほどで、一種の傑物には違いないが、読後にぐったりと疲れることすらある。
同じ妻殺しの話を書いても、モームなら、さっぱりと、しかし同時に鋭く描ききる。実にシャープだ。

最近暑さのせいか物事が面倒で。読書も無駄なものを読むのがいやになってきた。昨日はクリスチアナ・ブランドのデビュー作「ハイヒールの死」を読了したが、予想通りミステリーとしても一般小説としても二流の感だ。だがこういうエンターテインメント性のあるものもはまだいいのであって、今一番読みたくないのが、「それらしく」書こうとしている二流の純文学だ。行間を読めと言われても、行間に何も書いていない。そういう「雰囲気」につきあわわれるのが面倒なのだ。
人生は短い。そして素晴らしい作品は多い。そういうものを読まなくては。

The Treasure (貴重な宝もの)  *サマセット・モームの「ジゴロとジゴレットに収録された短編(邦題=「掘り出しもの」) (1934)



前の日記へ次の日記へ