mortals note
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君の望みを叶えてあげることはできない。 そう告げたときの少年の顔を、巽は忘れられずにいる。 「だったら」 悲愴な面持ちで、少年は深く黒い双眸を伏せる。 「だったら、誰が僕の望みを叶えてくれるんですか」 「お前、自分が何を言っているのか分かっているのか?」 巽は思わず、テーブルを叩いた。手をつけられぬまま冷めている珈琲の表面に、黒いさざなみが立った。 「分かっています」 手元のカップに浮かんだ荒波を無表情に見下ろして、麻生貴行は小さく顎を引く。頷いたようだった。 「僕だってどうかしてるのは分かっているんだ。だけど、それ以外に何もないんです。ずっと昔から感じていた寂しさを癒してくれるのは、多分」 「何をそんなに焦ってるんだ、別に今日明日に死んだり殺したりっていう話じゃないだろう。バレずに生きていく方法ならいくらでもある―――」 「だから!」 低く重い声音で、貴行は巽の言葉をさえぎった。 「だからもう僕は……どうかしているんでしょう」
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「もう俺は行きます」 苦渋の表情で黙り込む名家の息子に、巽は静かに告げた。 貴行の、痛みをこらえるような笑みを思い出していた。 「あの日、」
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