草原の満ち潮、豊穣の荒野
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月夜。
『彼』は空を見上げていた。 そこが何処かはわからない。
記憶にない場所に『彼』は立っていた。 何もない荒野。
青い髪のケモノは走り出した。 遠くどこまでも続く場所へ向かって。 想い出を置き去って 戻る事すら微塵も思いに存在しなかった。
その脳裏にはただ遠い何処かしかない。
戻る道は走る傍から崩れ去る。 立ちはだかる岩は砕き、あるいはよじ登り また駆けた。
何処へ行く? 何処までも!
繰り返す自問自答。 叫ぶのは己の魂。
響き渡る咆哮。 止まらない足。 行ける場所まで。 倒れて塵と化すその日まで。
若いケモノはそのまま暗闇の荒野を 駆け抜けて消えた。
青い髪の少年が繰り返し見ていた夢。 月夜だけがそれを共に見続ける。
そこが何処かはわからない。
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