草原の満ち潮、豊穣の荒野
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14 若い獣



月夜。

『彼』は空を見上げていた。
そこが何処かはわからない。

記憶にない場所に『彼』は立っていた。
何もない荒野。


青い髪のケモノは走り出した。
遠くどこまでも続く場所へ向かって。
想い出を置き去って
戻る事すら微塵も思いに存在しなかった。

その脳裏にはただ遠い何処かしかない。


戻る道は走る傍から崩れ去る。
立ちはだかる岩は砕き、あるいはよじ登り
また駆けた。


何処へ行く?
何処までも!

繰り返す自問自答。
叫ぶのは己の魂。

響き渡る咆哮。
止まらない足。
行ける場所まで。
倒れて塵と化すその日まで。



若いケモノはそのまま暗闇の荒野を
駆け抜けて消えた。





青い髪の少年が繰り返し見ていた夢。
月夜だけがそれを共に見続ける。

そこが何処かはわからない。