ぶらんこ
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その日は食事の支度が遅くなり、どこかへ出る気分でもなかったので、ではカレーの残りを食べようか。ということになった。 しかし、カレーにするにはご飯が足りない。 今から炊くのもなぁ・・・としばし思案した後、カレーうどんにしようという名案が浮かんだ。 そこで、普通のカレー1人前、カレーうどん2人前を準備した。
その日はわたしとこころと姉との3人であった。 いざ食卓へと持っていくと、3人とも「誰がカレーで誰がカレーうどんになるのか」という顔になった。
早速こころが「誰がどれ?」と訊いてきた。 ちょっとした沈黙の後、「じゃんけんで決めよう」と姉が言った。
またじゃんけんかよ・・・という空気が一瞬流れたが、とりあえず皆それに賛成した。
ラッキー!最初に勝ったのはわたしだった。わたしは迷うことなくカレーうどんを選んだ。 姉とこころは熾烈な戦いを繰り広げたが、結局こころが勝ち、彼女も嬉々とカレーうどんを選んだ。 姉は、「負けた人がカレーうどんじゃなかったの〜〜〜?」と、戯言をのたまった。
ほっほっほっ どうぞどうぞなんとでもお言いなさい。 「わたしは最初からカレーうどんが食べたかったもんね」 「カレーうどんのほうが美味そうだし」
勝った人はなぜか心も広くなる。「少しなら食べても良いよ」とか言ったりして。
兄弟姉妹を持つ良さというもののひとつに「真剣勝負」があると思う。 それはつまり、「容赦ない」ということ。 たとえば、何かを得るため「ぶつかり合う」こと。 その中には、本音を隠したり出し抜いたりということも含まれる。 そしてそれは歳が上だとか下だからというのは関係しない(少なくとも当人達にとっては)。 結構、ダーティー。純粋な汚さ。
と、ずっと思ってきた。 兄弟姉妹とはそうやって育っていくものだと思ってきた。 でも、そうでない家庭もあるんだなぁ・・・というのを大人になってから知った。 それは親の考え方とか家庭の経済状態だとか、色々な環境の違いから来るのだろう。
なので、「じゃんけんで決めよう!」と言ったとき、例えば相手から「あげるよ」なんてすんなり言われると拍子抜けしてしまう。 え?欲しくないのか?と問いたくなる(問うてしまう)。 欲しいことは欲しいけど、そこまでして欲しいわけじゃないからいいよ。なんて言われたりしたら、もう・・ホントに困ってしまう。
大体、「じゃんけんで決める」という発想すらない人もいる。 それはどういうことだろうか。競争意識がない?それとも渇望感がない?
こころはひとりっこだ。 そういう予定でそうなったわけではないが、結果的にそうなってしまった。 ひとりっこというのは、分けたり奪ったりする相手となる兄弟姉妹がいないということだ。 それは、常になんの障害もなく物が与えられる。ということになり兼ねない(もちろん、こどもが欲しいのはモノではない、心=愛情だ)。
と、いうことを意識してきたつもりはないのだが、どうもその「相手」役を自ら引き受けてきた感がある。 なので彼女はよく、「じゃんけんで決めよう!」と(わたしに)言ってきたし、今もそうだ。
相手となるからには、一切手を抜かない。真剣に勝負に挑む。 そこらへんを、母親らしからぬ・・・と言われたりすると、まぁ確かにそうかもね、とは思う。(それが何か?)
そう言えば以前、大皿に盛った鶏の唐揚げが残り少なくなったとき、皆でじゃんけんをしたことがあった。(しかし狡い話題だ、、ははは、、)
その夜のメンバーは、わたし、こころ、姉ふたり、母の5人だった。 さて、母抜きでじゃんけんを始めようとしたら、珍しく母が「母ちゃんもじゃんけんする」と言うではないか。 いつも誘うと「母ちゃんは要らんからいい」と断ることが多かったので驚いたが、皆、手放しで母の参加を喜んだ。もう俄然、勝つ気マンマン。
さて、仕切り直して、じゃんけん。
確か鶏は3個残っていた。最初のふたりが誰だったか忘れてしまったが、なんと3人目に勝ったのが母だった。
母は「では、いただきます」と言って軽く会釈した後、「はい、これはこころにあげるから」と言った(!)。 こころは、えっと驚いてから「いいよ、おばあちゃんが勝ったんだから・・」と(一応)遠慮がちに言っていたが、顔はもうにやにやだ。
「母ちゃん、そら駄目でしょう!」 「そんなんじゃ勝負っち言えんがねー」 「じゃんけんした意味がない!」
娘達の雑音に、母はびくともせず、にかっと笑ってぴしゃりと言った。
「母ちゃんが勝ったのだから、母ちゃんのしたいようにしていいの」
・・・うぅ、、、確かにそのとおり、、、
かくしてこころさんは、「おばぁちゃん、ありがとう〜〜〜!」と満面の笑みで鶏を頬張ったのだった。 しかも彼女は先に勝ってたよな気もするのだが、そこらへんは無理に記憶を抹消したのかおぼろげだ(確かめるつもりもない)。
ところで我が家の公平な選び方としては、じゃんけんの他に「あみだくじ」もよく登場する。 まぁどちらも文句のつけようのない公正さだと思うので、自信を持ってお勧めしたい。
つまり、何が言いたいのかというと、「真剣勝負」というのは、愛そのものだと思うのです、我が家では。
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