ぶらんこ
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親友夫婦にこころを預けて出かけるところである。 あまり乗り気はしないのだけれど、何かの会合らしい。 屈託のない笑顔で見送られる。(こころはまだ幼い。6歳くらいか?)
新宿駅では、いよいよ落ち着かない。 小田急線だからだ・・と、うらめしい気持ちになる。 かといって、東海道線は尚、もの悲しい。
心を決めて切符を購入し、ホームに立っていると、電車が入ってきた。 2両編成の、やけに豪華な電車(スーパートレイン)であった。
進行方向に向かって並ぶ2席に座ることにした。他のシートとは離れていたので、ちょっとした特別席に思えた。 荷物を先に置き、ほんのちょっとだけ外へ出た。 ほどなくして席に戻ると、大きな身体をした女性がわたしの荷物の上に被さるような無理な体勢で横になっていた。 なんじゃこのオバサンはーーー ちょっとこの席、わたしが取っておいたものなんですけど! と、心のなかで叫んだが、「すみません・・・」と言って荷物を取り除いた。 するとオバサンは、のそりむくり、と起き上がり、どこかへ行ってしまった。 なので、わたしは、その席に荷物を膝に載せて座った。
電車はすーっと動き出し、あっという間にスピードを上げた。 新宿の高層ビル群がどんどん小さくなっていく。 スーパートレインは音もなく突き進み、窓から見える景色は郊外へと変わっていった。
誰も喋る人はなかった。 一度、大きな駅に停車し、何人かが降り、代わりに何人かが乗り込んできた。 この乗り換えの駅は見覚えがあり、なぜか混乱した気持ちになる。 今日はここで降りることはないのだから、と目を閉じた。
しばらくして目を開けると、いつの間にか発車されていた。 窓側に席を移動し、ぼんやりと外を眺めていると、遠くから大波がやってくるのが見えた。 波???
みるみるうちに、周囲は大きな波に包まれた。 スーパートレインの線路はかなりの高度にあるのだろう、電車は何事もないかのごとく進んでいく。
海になってしまった。。。 呆然とした気持ちで景色を眺めていたが、そうだ、こういうことはあり得るのだから、と思いなおした。 まずはこころに連絡をしなくては。親友夫婦に電話をかけると、彼らのところはまだなんともないようだった。 とりあえず姉のところへこころを連れてって欲しい、とお願いすると、彼らは快く引き受けてくれた。 その後、姉のところにも電話をした。姉は落ち着いた声で「わかったから、安心して」と言った。
よし。こころは大丈夫。 スーパートレインも大丈夫。 さてどうするか。 このまま行くべきか。いや、海になってしまったのだからそんな場合じゃない。 でも、どうやって帰ろう。新宿まで帰ったとしても海のなかだ。新宿から帰るのは、マズイ。 とりあえず・・・まずは舟に乗るか・・・と思った。次の停車で降りよう。
海は青くて、とても広かった。辺り一面、海だった。やっぱり関東平野は広いのだ。と心から感動する。 時折、大きな波が起こると白いしぶきが立った。それ以外はわりと穏やかな海だった。 たぷたぷと波が揺れるさまを見ていると、静かな気持ちにさえなるのだった。 こうあるべきなのよ・・・という妙な確信すらあった。
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