ぶらんこ
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歩くのがまだまだ困難だ。
「歩くのが」と言うより、「地に足をつけているのが」と言ったほうが正しいかもしれない。 街灯に両腕をまわし、わたしは街の様子を眺めていた。 近くでは、映画の撮影なのか、カメラや照明を持った人々がたくさんいた。 そのうち、あの空間の中央に、役者らしき人物が歩いてくるのが見えるのかもしれないな。 他の人々は、そんな様子を気にすることもなく、思い思いに街を歩いていた。 駆けている人もいた。 縁石に腰掛けている人もいた。
いろんな人(?)がいた。 変わった動物のような人(或いは宇宙人なのか?)もいた。 楽しそうにしている人、忙しそうにしている人、静かにしている人、いろいろだった。
空は、雲が灰色に垂れ込め、ずっしりと重い感じだった。 建物のあちこちに掲げられた旗が、小さな風を受けながらたなびいている。 どこの国なのだろう。旗は、赤と黒と緑のストライプに何やら絵が描かれていた。 建物は石で出来ていた。 道路も石が敷き詰められて出来たものだった。 あちこちに植物が植えられ、大きな木もある。 古い街なのだと思う。 懐かしいような気持ちにさえなった。
「あのさ、きみが思っているよりも、きみは上手く歩けてるよ。」 わたしの連れが優しく言った。 彼はわたしの半分くらいの背丈で、いつもわたしと一緒にいる。 いつからそうなったのか、自分ではよくわからない。 あまり気にしたこともなかった。彼に話しかけられ、あらためて彼の存在を思い出したようなものだ。
彼は人に近い姿だったが、眉毛がなかった。髪の毛もなかった。たぶん、体毛というものがないのだろう。 けれども、大きな黒い瞳が美しい子だったので、まつげはあったのかもしれない。 年齢はわからない。聞いたこともない。わたしよりも年上だろう。軽く100歳は超えているような気がする。 でも、背が随分低いので(それに綺麗な顔のせいか)わたしは彼のことを、ついつい子供のように思ってしまう。
「まだ『歩く』と言うには程遠いよ。」 わたしがそう答えると、 「それはきみの能力なんだから。きみはもっと自信を持つべきだね。」と彼は言う。 「『歩けない』能力?なんだか笑える。。。」 わたしが力なく笑うと、 「違うよ。きみの能力は『歩けない能力』じゃぁない。『飛ぶ能力』と言ったほうがいいね。」
飛ぶ???何を言ってるんだろう・・・。 そう思ったのに、わたしは次の瞬間、こんな言葉を口にしていた。 「『飛べる』じゃないでしょ。『跳べる』でしょう。大体にわたし、どこまでも飛んで行けたことなんかないじゃない。」
「どこまでも飛んで行けますよ。あなたがそう望めば。 いいですか。 あなたの能力は、「垂直抗力をコントロール出来る」というものです。それはあなた自身、ご存知な筈です。 この惑星の人たちで、それを出来る、いいえ、覚えているのは、残念ながら、わずかです。 実のところ、それを「覚えている」ということこそが『能力』と呼べるのかもしれませんが。」
なんで急に口調が変わってんのよ・・・。そう思って彼を見ると、
「あなたが変えたんです。 きみが変えたんだよ。 いいですか。どっちもわたしです。どっちだっていい。 どちらも、『あなたを通して話している』僕の言葉です。 あなたが感じるとおりの『僕』だ。」
わけがわからない、、、。
ショーウィンドウに自分の姿が映っていた。 相変わらず街灯にしがみついている。馬鹿みたいだ。 脚がやや細く見えた。腫れがいくらかひいたのかもしれない。 けれども、相変わらず両膝と両足関節が不恰好に腫れていた。 左のくるぶしには、大きな潰瘍が口を開けている。痛みがないので、余計に悪い。 なんでこんなことになったのだろう。ちゃんと洗浄しなくちゃ・・・皆が怖がっちゃう。。。 わたしは、ちょっと腕の力を緩めてみた。 大丈夫。 まだちゃんと立っている。
「ちょっと歩いてみる。」 わたしは彼にそう言って、意識的にゆっくりと歩いた。 地面から右足を離すと、すぐに体が浮く感じがしたが、まだ駄目・・と、それを抑えるように集中した。 右足、左足、右足、左足。。。 案外大丈夫そうだ。もうちょっと小股で自然に歩いてみるかな。 交互に足を出す、とか意識せずに?
と、いきなり体が浮いた。 ヤバい。 集中、集中。 あーーーもういい! ちょっと遠くまで行く!
わたしは上空まで高く跳んでみた。なんてことはない。やっぱり、まだまだ歩くのは困難だ。。。
「で?どこへ行きたかったか、きみは思い出したんだね?」 いつの間に、彼はわたしのすぐ横を飛んでいた。「飛んで」いた。 「うん。でも、あなたには言いたくない。秘密。」 すると彼は、にっこりと笑った。 「さっきも言ったとおりだよ。僕は『きみを通して』話してるんだ。 つまり、きみの行きたいところには、必ず、僕も、いる。」
ちょっと・・・そんなの、、、困る!
―と、いうところで目が醒めた。
なんという夢だ。現実があちこちに混在している。。。
なんだか、どっぷりと、疲れた、、、
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