プープーの罠
2006年03月17日(金)

焼きたらこのつぶつぶの数だけ

映画を見に行く。
早稲田さんとふたり。

はじめて行ったその映画館は、
お互いの家からの中間あたり
という理由だけで選んだ
にも関わらず、早稲田さんが住んでいる
と思い込んでいたところは実際の彼の自宅
とはかなりかけ離れていたらしく、
結局どちらからも遠い場所であった上に
少し割高な指定席で、映画ってこんな値段でした
っけ?なんて言いながら席に行ってみれば
ご丁寧に「ラブシート」形態をしていて、
とりあえず館員が気を利かせたわけではなく全席コレ、
それで見るのはホラー映画である。

ふたりの間にひじ掛けがないまま微妙〜
な距離を置いて並んで座り、
怖がったりして腕を掴んでみたりする
ならばある意味イイチョイスなのかも知れない
が、私は一番の見せ場で、始終肩を揺らし、
ツボに入ってしまった笑いを堪えていた。
馬がヒヒーンと嘶いて急に走り出したりするもんだから。

映画はまぁ微妙で、空気もそのまんま微妙で、
食事をするにも微妙に早い時間で、
とりあえずそこらへんをうろうろするも、
そこは休日のオフィス街で、殺風景で閑散としている。

だだっ広い広場に出ると、そこには段差がたくさんあって
緑のない無機質な公園というのは
私の子供の頃の夢によく出てきた風景であり、
 あぁしまった昼間に来たらよかった
などと口走った私に彼は
 じゃあ今度は明るいうちに来ようか
と言い、あぁ次もあるつもりなのかしらと私は思った。

変わった人だけど
ぼんやりと笑う人は好きだ。

そうこうしているうちに日も暮れて
焼酎が揃っていそうな店を選び、
カウンターに並んで座り、目の前では店員が
焼き物を炙っていて、私はそれを眺めている。
焼きたらこのつぶが弾け飛んで行ったりして
おぉ!などと感嘆をあげる私、
 「食べたかったら頼んでいいですよ」
 「私魚卵全般ダメなのです」
彼はいちいち楽しそうに私の様子を眺めては
それをつまみにお酒をあけた。

そんなに見られると困るのですけど。

いつもすらすらと話す
ようなことがまるで話せなく、
無言
これはまずいだろうと思った時
彼は言った。

 浅田さんは
 今付き合ってる人いないんですよね。
 俺と付き合いませんか。

まさかそう直球で来るとは。

私だってある程度予想の上で来てるわけですけども、
 えぇじゃあ私もそうしたいです
みたいな、ついで、みたいな返事をする
ことには私なりの抵抗がある。

ドギマギしながら
黙ってしまう、
先のこと話し過ぎ、
半年先の未来ですら許容できないのに、
つまりは
結婚を前提に
と申しておるのですか。

答えにつまると
 慌てなくていいですよ、返事は来年でも5年後でも。
彼は余裕を浮かべていて、

ゆるやかに登って行くのかな、と思っていた道が、
急に目の前で崖のようにせり上がり、
彼がその頂上から手を差し伸べている感じで、
私をそこへ引っ張りあげてくれるのですか?


手をつないで帰る。

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「プープーの罠」 written by 浅田

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