プープーの罠
2004年11月06日(土)

時は金になる

休日に仕事にかり出される。
猪口さんの手伝いだ。
最近の休日の予定といえば歯医者
くらいしかなかったので一向にかまわない
けれど、今日は珍しく予定があった。
夕方までなら、という条件で手伝う
ことになり

○12時に会社に集合
とのことだったのに、猪口さんは来ない。
いないと話が進まないので否応なく待たされる
かと言ってそれで「俺がいないと何も出来ない」
と思うのは勘違い以外のナニモノでもなく、
自分の仕事の進捗は誰にも言わない
人と情報を共有しない デキナイ人
であることを証明しているだけのことだ。

○14時。
まだ来ない。
仕方なく他のメンツで打ち合わせを始め、
分担を決めるも最新データの在処
を知っているのは 猪口さん だけ。
作業に入れない。

○17時。
「寝坊した」と
疲労がたまってるから仕方ないよね
とでも言いたげに、むしろ
誇らしそうな顔すらして
猪口さんはのこのことやって来て
そして、やはり臭う。

昨日は
クライアントからの戻しがない
ということで、今日の作業のために、と
みんな定時に帰っている。
昨日徹夜だったので寝坊した
わけではないのだ。
そして苦労人顔でのたまう。

「2時まで何だかんだ起きてて
 あんまり寝てなかったんだ。」

あんまりって、
赤ちゃん並に寝て来たんじゃねぇか。
社会人としてかなりダメだろう。
君がデキナイのは構わないが、
人の足を引っ張る
のはやめていただきたい。

○18時。
一度打ち合わせをしたことを
猪口さんのためにもう一度繰り返し
やっと作業に入る。

○19時。
私の作業自体は1時間もあれば終わり、
そのために何時間待ったのか。
みんなは徹夜作業だそうだ。

馬鹿らしい。
時間通りに始めていれば
10時間作業したって電車で帰れる。
ほとんど手伝いにもならないまま
私は無責任の印籠をかかげて
会社をあとにし

○20時。
少し遅れて集合場所に着く。

最果てにダイブ


みんなで集まるのは数カ月ぶり。
スティーブが何かやるらしい。

トールさんが送ってくれた
地図を念入りに眺めるも目印
になりそうな建物が何もなく
ちゃんとたどり着けるか少々不安
だったけれど簡素化された紙の上
では分かるはずもない、目的地そのものが
赤外線のごとく真っ赤に光っていて
迷いようがないくらい
遠くからでも目に付く。
入るのに怯む。

中に入ると貸し切りのバー
のようなホールに通され、
ざっと20数人、
トールさんを見つけて
とりあえず所在なげに座りそれなりに
ぐるーりと見回してみるも
知っている人はことごとくいなく、

お酒を飲んだり隣の人の会話を聞いて
いるようないないような
まぁそれは割といつものことである。

トールさんが、奥さんの教え子
だという女の人を紹介してくれ、
トールさんの奥さんと面識があるのは
この中では確かに私くらい
ですがかと言ってその教え子と私
に関係性がある わけはもちろん なく
要するに一番ヒマそう だったのが私であった
というだけのことなのですが、
女の人は私の隣に座った。
名前をハナコさんと言った。

トールさんの奥さんはヨガの先生であり
ということは 彼女はヨガをやっている。
黒髪をアゴのラインで綺麗に切り揃え
背筋をしゃんと伸ばした姿が 凛 としてステキ。
彼女は美大で絵の勉強をし、
今は法律を勉強しているそうだ。
知的財産権、著作権、
絵を守る方に興味を持った
とのことで、よほどこういう
会話に慣れているのか
頭がいい故の当たり前のことなのか
分かりやすく丁寧に話してくれる。

それに対して私はヘェ、ヘェ、ホゥ
くらいしか言えない無知っぷりで
私もヨガを始めようかしら
なんてあさってなことを考えて
いたりもしましたが、とにかく
ハナコさんの話を聞いていると
何だかウキウキしてくる。
聡明な女性は好きだ。


ひとしきり話し込み
話題もとぎれた頃ようやく
スティーブの話が始まる。

何やら新しいプロジェクトを始めるそうで
その概念をつらつらとプレゼンテーション
しているのだろうが、あまり要領を得ない
ずいぶんと漠然とした話だなぁという印象、
そしてこの時に初めて知ったのだが、
スティーブはtomatoを辞めたそうだ。

トマトを箱詰めにして出荷し
ビジネスとして成立させ、そのラベルを
世界的に有名にしたのは確かに
スティーブこの人であろう。
けれど、今彼がやろうとしていることは
箱を一つ用意し、その中に"何か"を詰め
大々的に売り出し、そのラベルを
かつてのトマトをも越える
ブランドにしよう
ということであり、つまり今は
入れるものは何もない
けれどとりあえず
箱を用意してみました
というだけのことだ。

彼は見失ってはいないだろうか。
価値があったのは箱でもラベルでもなくて
トマト自体なのだ。

彼が縋りついているのは
藁ではなく確かな栄光
ではありますがそれはすでに過去形。
もう辞めたのである。


何だか尻すぼみのまま
集まりは解散へと向かい、

ホールの重鎮なドアを開けると
すさまじい爆音と奇声、
ダンスフロアもあるらしきこの店、
出口へと向かう通路では
裸に近い露出をした猫背の女が
大口を開けて何かを指さして笑ってる。

ここは好きになれない。

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「プープーの罠」 written by 浅田

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