BERSERK−スケリグ島まで何マイル?-
真面目な文から馬鹿げたモノまでごっちゃになって置いてあります。すみません(--;) 。

2006年02月01日(水) 「青い狐の夢」10



「では早速やった、やった」
 
 ヤーノシュが、食べかすの鶏の骨を握らせようとするので
セルピコは腰が引ける。勘弁してくださいよ、教授
それは教授が口に入れた物ではありませんか。
 渋い顔をするセルピコにかまわず、ヤーノシュは彼に鶏の骨を握らせた。

「これ、どうしたらいいのでしょう……」

 湿った鶏の骨を手にして困惑するセルピコ。
たぶん、この湿り気は鶏の脂と、教授の唾……。

「何、簡単な事だ。君が今悩んでいる事を思って
 骨を好きなところへ置く。
 一晩したら、同じところへきてみる。
 そこに青い狐の足跡か、骨を噛み砕いた跡があるかもしれん。
 それを見て吉凶を占うのだ」

「はあ……」

 セルピコはヤーノシュに急き立てられて、いつも通る荒野の道筋
その脇生えた、目印になりそうなネズの木の根元に骨を置いた。

「これでいいのでしょうか?」

「それでいい。明日、陽が昇ったらすぐここに来たまえ。
 私も来る」

 自分は馬鹿にされているのではないだろうか?
ヤーノシュの堂々たる体格を見ると
セルピコには彼がどうにも早起きの人間に見えないのだ。
明日の早朝、ぽつねんとこの丘に骨と共にいる
とんまな自分の姿が容易に想像出来た。
また、こっそりとため息をついた。

「夕食の時間に遅れてしまいました。
 私はどうすればいいのでしょう……」

「パンとチーズくらいは私が調理場から調達してやる。
 暖かいスープの一杯くらい付けてやってもいい。
 心配するな」

 食事を抜けば倒れそうな痩身のセルピコを横目に
ヤーノシュはネズの木の周りをまわって
枝を曲げたり、葉をちぎったりしていた。

「待たせたな、では帰るか」

「あのネズの木が何か?」

「ここは昔、もっと多くの木々が生えていたそうだ。
 教圏の教えがくると、その土地の木は切り払われてしまう」

 すっかり夜になってしまったが、今日は月が明るくて
夜の散歩もそうわるいものではなかった。

「教授は青い狐を見た事がおありなのですか?」

「いや、私自身は見た事がない。
 この土地の古老の教えだ。
 この土地特有の薬草や、病気の癒し方など実に多くの事を教えて頂いた」

 青い狐は非常に賢いので、滅多に人の前に姿を現さない。
ただ、昔、人と世界とが近かった頃、人々は青い狐の鳴き声、気配
蒼い毛皮のその姿をかいま見る事があったとヤーノシュは言った。
まるで世界の断片の様だと彼は語り、セルピコは眉唾ものだと思って
教授の話を聞いていた。

「私の郷里でも、法王庁の教え以外の存在の話が伝わっていた。
 よく子供の頃、夜、祖母に昔話をしてもらったよ」

 人の業渦巻く聖都育ちのセルピコにとって
青い狐と同じくらい遠く、しかしどこか懐かしく、羨ましい話でもあった。





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