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休日午前十時過ぎ(笛/渋沢と三上)。
2010年02月27日(土)
それは、細かな泡がいちめんに入り、底部が丸みを帯びた白いグラスだった。
「これで飲むのが一番うまい」
自慢顔でそう言うのは、三上の同室者だった。大きな手でしっかり握ったガラスのティーポットから、琥珀色の液体をゆっくりとグラスに注ぎ込む。
淡い色をした湯気が、勉強机の椅子に座る三上までやさしい香りを運んでくる。
窓の外に静かな雨が降る初冬。まだ昼間から暖房を入れなくても何とかなるような、東京の冬の始まりだった。
「うまいって、たかがガラスのグラスだろ。しかもそれ用途ちがわね?」
「ただのグラスじゃない。琉球ガラスだ」
「普通それ、焼酎グラスって言うだろ」
「寮で酒が飲めるか」
きまじめに話す渋沢に、三上はそういう話じゃないと内心ためいきをつく。ときどきこの友人とは会話のすれ違いが発生し、それをまた相手が気づかないのがもどかしい。
しかし、この時期に温かい紅茶の差し入れが嬉しいのは確かだ。そして三上はコーヒー党と見せかけて紅茶のほうが好きだ。日頃飲み物は紅茶より日本茶を好む渋沢にしては気が利いている。
「沖縄に旅行に行った人からもらったんだ」
「ふーん」
寮暮らしの未成年に琉球グラスとは、よくわからないチョイスだ。
それでも、未成年なので飲酒はできないが、もらった以上一度は使おうという思いで、渋沢は少なくとも一度はそれで紅茶を飲んだのだろう。
「まあほら飲め」
「ん」
片手で渡してきたグラスを、三上は椅子に座ったまま受け取る。分厚いガラスごしに、じんわりと熱が伝わってきた。
一口飲むと、三上好みのややぬるめのセイロンティーが舌に触れる。
熱くなく、どこかほっとする温度と味だった。
「うまいだろ?」
「まあ、そうかもな」
「だろ」
天然の茶髪を揺らして、渋沢が屈託のない笑みを見せた。満足そうに自分のグラスを持って彼は床であぐらを掻く。
少し前までパソコンに向かっていた三上だったが、どうやら渋沢が雑談に付き合って欲しい様子だったので椅子のスツールをくるりと回し、少しパソコンに飽きた風を装った。
渋沢は自分のグラスを両手で持ち、一口二口と温かな温度を確かめるように飲む。やがて、開いた唇が少し息を漏らした。
「あー…………うまい」
「そりゃ何よりだな」
のんびりとくつろぐ渋沢の気配。背中にそれを感じながら、三上は穏やかな夜に忍び笑いを漏らした。
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オチがいまいちわかんないんですけどね。
もうじき三月だというのに舞台が初冬というのは、これが一年ほど前に途中まで書いて投げ出した没作だからです!
つけ加えてリサイクル。
渋沢と三上で間接チュー! …とかいったって、日常的に回しのみなんでやってるだろうから別に意識なんてしないだろうな、という発想だった気がする(たぶん)。
琉球グラス(焼酎グラス)は、実際私が持っているものをモデルにしました。
これが意外と、紅茶を飲むのにもいけるのです。
なかなか冷めにくく、アイスティーだとしてもぬるくなりにくい。そして色ガラスではなく、私は白を使っているので紅茶の一つの魅力である色も楽しめます。
ガラスの地が厚めなので、唇に触れたときの感覚も優しく、まろやかに飲みたいときに重宝します。
そしてお客さんが来た折には、ビールグラスとして出します。…発泡する飲み物に向いたグラスがこれしかないんだ…。
どうでもいい話ですが、何かむしゃくしゃもやもやした気分だったので、家中のあらゆるものを洗濯してみました。
洗濯って、本当にストレス解消になる!(理屈はわかりません)
ささやかな問題として、洗いすぎて、室内に干すところがなくなったところでしょうか…(室内物干しからあふれた)。
生まれ変わったら洗濯機になりたいね。
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