小ネタ日記ex

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再録:卒業(笛/木田圭介)(大学生)。
2010年03月11日(木)

 桜にはまだ早いけれど。










 薄曇りの朝は昼に近づくにつれて消え去り、三時を過ぎる頃には早春の青空が臨めるようになった。

「きーだーっ! こっちこっち!」

 何やら大荷物を抱えた振り袖と袴姿の声が、その学校の前で待ち人を捜していた彼を呼んだ。
 遠くからでも彼女の朱地に白い桜が散った振り袖が人目を引くが、着物以上に整った繊細な顔立ちがすれ違う者を振り返らせる。たとえ本人がそれに頓着せず、優美に歩かずにブーツの踵を高らかに鳴らしながら小走りになっていても。

「走るなよ。転ぶぞ」
「んなヘマするわけないでしょ。いいからこれ一度車に置いてきて、そしたらあっち来て」

 一方的に言うと、彼女は木田に花束や卒業記念品と印字されている紙袋を渡した。
 その拍子に結い上げた髪がさらりと揺れた。先日の成人式での純粋な振り袖姿もそれはそれで似合っていたが、袴にブーツという女学生スタイルも彼女にはよく似合っていた。
 押し切られるより先に荷物を受け取った木田は荷物よりも彼女のその格好のほうが気になって仕方ない。

「なによ。似合わないって言いたいわけ?」

 木田の視線に気付いた彼女はやや不機嫌そうな顔を先に作った。

「そんなこと言ってない」
「…じゃあ、似合うの一言ぐらい言えないの」
「俺が言わなくてもどうせ他のやつに言われただろ」

 木田の不用意な一言は、にっこり笑った彼女の笑顔と靴の上から思いきり踏み下ろされたブーツの踵で返ってきた。

「あたしは、あんたに言って欲しいって言ってるの!」

 浮かべるのはたおやかな笑顔のくせに、口調はきつい。
 表情と口調が全く合っていない。いい加減慣れた木田にはさして衝撃はないが、この学校で出来た友達とやらが最初にそれを見たらさぞ驚いたことだろう。

「…黙ってれば綺麗だと思うが」

 責められて素直に薄情するのも悔しく思え、木田がそんな憎まれ口を叩くと、今度は平手で頭をはたかれた。
 わざわざ長身の木田に合わせて背伸びをした彼女は思ったことは即座に行動するタイプだ。

「どうしてそうあんたって一言余計なの」
「…あのな、それがわざわざ休みに迎えに来てやった人間に対する態度か」
「うるさい。どうせ四大生は春休み中でしょ。暇なら付き合いなさいよ。こっちは朝から着付けやら何やらですっごい大変なんだからね」

 成人式にも聞いた覚えのある愚痴をぶつけられ、木田はこれ以上何か言うのはやめようと心に決める。苛立った女には逆らわないほうが無難だ。
 腕を組んだ彼女は口の中だけで「まあいっか」と呟いた。

「ともかく、それ置いたら正門のほうに来てね! みんなで写真撮りたいから」

 要するに臨時カメラマンにしたいわけだな。
 確認するのも無意味に思え、木田はその言葉を飲み込んだ。
 どうせ短大の卒業式に車で迎えに来いと言われた時点で今日一日使いっ走りにさせられることは覚悟の上だった。

「はいはい」
「んじゃよろしくねー」

 軽く手を振って、彼女は踵を返した。
 ひらりと舞う和装の端に、木田はそういえばと言っていなかったことを思い出す。

「なあ」
「ん?」
「卒業おめでとう」

 かつん、とブーツのヒールが止まる直前の音を弾いた。
 振り返る彼女が、出会った中学生の頃と変わらぬ無邪気な笑顔を見せた。


「ありがと」


 卒業おめでとうございます。








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 再録はどこまで続くのか。
 最後のブーツを鳴らして振り返る姿が書きたくて書いた記憶があります(2003年当時)。

 実家に行ったら、またしても兄が買ってるマンガと私の買ってるマンガが重なっていました。
 私らはいいかげん、ハガレンを買うときには連絡し合うという習慣をつけたほうがいいと思う(何冊ダブっているのか…)。
 今回はバグマンの新刊がダブりました。
 他人ならいざ知らず、貸し借り簡単な身内でマンガの購入が重なると、非常に口惜しい。
 私はカヤちゃん派(服の好みは青樹さん派)ですが、兄は亜豆さん派だそうです。
 ラッキーマンならひしょかちゃん派です。




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