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クレッセントムーン(種/ラクスほか)(Fateパラレル)。
2007年06月16日(土)
猫の爪のような月が出ていた。
※前回はこちら。
「…そう、ヤマトのご令息が戻ってらっしゃいましたのね」
夜の帳の中、鈴のような声音がその空間を震わせた。
その教会の中には蝋燭一本の明かりもなかった。細い月だけが、祭壇の真上にある天窓からささやかな光を注いでいる。
慣れた闇の中にたたずみながら、ラクス・クラインは同胞である銀色の髪の青年に微笑む。
彼女に情報をもたらしたイザークは、大して動揺がない教会の主に向かって、訝しげな視線を向けた。
「よろしいのですか?」
「何をですか? イザーク」
「すでにヤマトの当主は亡く、息子といえど正式な跡継ぎとして認められたものではありません。そんな輩に、聖杯戦争の参加権を与えるなど…」
「構いません。仮に、どのような血筋であったとしても、すでに彼はセイバーとの契約を結んでいます」
契約は絶対のものだ。サーヴァントとマスターが互いに交わした誓いが存在する以上、彼らが聖杯戦争に参加する権利を得たことは明白なのだ。
中立者として存在する教会の主の凛然とした声は、その事実を正確に告げていた。
「そうそう、セイバーのマスターになったのなら、一度きちんと聖杯戦争のルールなどのお話をしなければなりませんわね」
どこか楽しそうに、閃きを伝えるように彼女はぱちりと手を叩いた。頼りない月光の下、桃色の髪が揺れる。
白い頬、可憐な青の瞳。まだ少女の年齢だというのに、己の意思次第で無垢な乙女にも老練な修道女にもなれる魔術師を、イザークは敬愛する反面畏怖していた。
「妙なトラブルに巻き込まれる前にしたほうがいいでしょう」
「ええ、あなたの仰る通りですわね。明日、わたくしがお迎えに行って参りますわ」
「そのぐらいのことなら、ディアッカにでも」
「いいえ、わたくしが参ります」
頑としてラクスは自らが行くと譲らなかった。押し問答は結局敗北にしかならないと悟っているイザークはそれ以上反論せず、吐息で了承する。
「せめて、護衛をつけられたらどうでしょうか。中立であるといって、相手がそれを守るとは限りません。あなたの身に何かあれば大問題です」
「それには及びませんわ。わたくしとて魔術師の修行ぐらい積んでおります」
にこ、とラクスが微笑めばそれが勝利の合図だ。
参拝者がいない礼拝堂の中で、ラクスの微笑は光のようにその場を照らす。慈愛に満ちた微笑み。聖女とすら呼ばれるラクス・クライン。その正体が、人殺しを容認する血なまぐさい組織の幹部だと知っているのは一握りの人間だ。
手に入れたものの願いを叶える伝説の聖杯。マスターとサーヴァントが組となり、複数の組の中で戦い、生き残った者だけが聖杯を手に入れられるルール。その律の管理者が、ラクス・クラインという名の少女だった。
「いつもありがとうございます、イザーク。これからもよろしくお願いいたしますね」
「…感謝されるには至りません。俺は、ジュールの人間として当然のことをしているだけです」
それでは、と退去の挨拶をして去って行く銀髪の青年を見送り、ラクスはそのまま礼拝堂でたたずむ。
神に祈りを捧げる場にいながらも、ラクスの心には祈りの思いはなかった。祈るより、願うよりも、思いを行動にする気持ちが何より強いことを彼女は知っていた。
「そこにいますか」
背後に向かって、ラクスは問いかけた。確信の響きで。
足音もなく『彼』が近づいてくることを感じる。いつもと同じフードを被った黒衣のローブ、二十代半ばの青年の冷淡な気配。
「キラ・ヤマトが英雄の道を歩み始めました」
答えない相手に向かって、ラクスは語りかける。
青年はラクスの左隣に立ち、そのまま動かず、視線すらラクスのほうを見ない。極端に口数が少ない彼をラクスは好いていたが、彼がラクスをどう思っているかは知らない。
「…わたくしは、彼を止めたほうがいいのでしょうか。それとも、彼の信じるがまま、セイバーと共に戦うべきだと説くべきなのでしょうか。
あなたは、どちらがよろしいですか?」
―――キラ。
少女は青年の名を呼んだ。
青年は黙したまま、フードを払って顔を晒す。東洋のすんなりした顔立ちと、栗色の髪。瞳はわずかに曇った紫。キラ・ヤマトと同じ容貌の青年。
ラクスはゆっくりと彼を見上げ、その頬に右手を伸ばす。瞬き一つしない己のサーヴァントにそっと口付け、少女は泣きそうに微笑んだ。
「過去のあなたに会うわたくしを、恨んでいますか」
英雄と呼ばれるほど、人を救い人を殺すようになる道を教えた女を。
ラクス・クラインにさえ導かれなければ、サーヴァントとして縛られる運命にはならなかっただろうキラ・ヤマト。
サーヴァントには時間の概念は存在しない。稀にではあるが、未来に存在する英霊がサーヴァントとして召喚されることがある。いまラクスの前にいるキラ・ヤマトはその例だった。
時間の軸を捻じ曲げ、運命の女のサーヴァントになってしまった皮肉すぎる運命の青年。
彼は答えなかった。
霞がかった紫の目にはラクスが映っていたが、言葉はいくら待ってもラクスの耳には届かなかった。
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自己満足だけで突っ走ってみた。
こういう読み手を置き去りにした内容は書き手として最悪だと思う。
と、書きつつ反省しつつの、種でFateで教会管理者のラクス・クラインほか。前回の続きより。
種でFateやるなら、ラクスのサーヴァントは未来から来た種割れキラ様だろう! というのだけは強固に決まっていました。
もう続きを書くことはないと思うのですが、ラクスとキラ様のコンビはどうしても書いてみたかったのです。
…こういう微妙すぎるものを置く場が、前の携帯日記だったのですが今ないのでここで。やっぱり使い勝手のよさそうな無料ブログあたり借りてきて、こっそり設置してみようかと思ってます。
文字数制限なくて書き込みしやすくて、あんまりサーバ落ちとかしない無料ブログとかご存知の方いらっしゃいましたら、教えていただけると助かります…。
ヤプログは文字数制限でアウトしました。ライブドアは個人的理由で問題外です。やっぱりジュゲムとかかしら。
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