小ネタ日記ex

※小ネタとか日記とか何やら適当に書いたり書かなかったりしているメモ帳みたいなもの。
※気が向いた時に書き込まれますが、根本的に校正とか読み直しとかをしないので、誤字脱字、日本語としておかしい箇所などは軽く見なかった振りをしてやって下さい。

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再録:もしも君が1(笛/三上亮)(人魚姫パラレル)。
2007年05月08日(火)

 もしも君が人魚姫だったら。









 突然ですが、海の国の人魚姫は人間の王子に恋をしました。

「…そんなわけで、地上に行かなければいけないので行かせて下さい」

 人魚姫はそう父親に申し出ました。話の都合だと割り切っていますが、彼女の顔はとても嫌そうでした。父王は苦笑します。

「あー…姫、なぜ行かねばならないのかね?」
「書き手の都合です」
「…………………」

 真顔で返され、王は思案しました。
 何せしっかりはしているものの、この末の娘は少々気が強すぎるきらいがある上に軽く冗談を言える性格ではありません。父親をはったと見据える双眸は、ヒロインの立場を果たす義務感で満ちていました。
 どうせ行かねば話が進まないのです。やがて王は折れました。

「承知しよう。だがその代償に」
「わかってます。失語症になって、剣山の上を歩けばいいんですね」
「…いや…、そうなんだけれどね」

 声を失い、一歩歩くごとに針で差したような痛覚を伴う。
 …ものには言い様ってものが、と王は末娘の気丈さが別の意味で不憫に思えました。

「辛くなったら、いつでも戻っておいで」

 まるで嫁に出す気分で王はそう告げました。実際嫁に出すのと似たようなものです。
 人魚姫はしっかりとうなずき、母や兄姉たちにも挨拶するために王の前を去って行きました。
 残された王は、ふと思いました。

「…はて、王子とは一体どこの誰なのだろう」









 ほぼ同時刻、某国の王子は姉君にせっつかれておりました。

「ちょっと亮、いい加減に逃げ回ってないでせめて建前の婚約ぐらいしときなさい!」

 どさどさとテーブルの上に釣書やら健康証明書やら肖像画やらを積まれ、三上家の第二子はげっそりした顔を隠しませんでした。

「ねーさん、どっからそんなもん」
「仕方ないでしょ。あたしは他家に行っちゃったし、この家を継ぐのはあんただけなのよ。伯母様方が気を揉むのも当たり前。お隣の渋沢さんちは来年結婚するっていうし、同じ歳のあんたが婚約の一つもしてないんじゃ焦りもするでしょうよ」

 早口で説明され、王子はやる気なくソファに身体を沈めました。
 十代のうちからさっさと相手を決めあっという間に嫁ぎ今では二児の母となった姉は、立派にこの家の長姉としての役目を果たしていました。そんな歳の離れた姉がたまに里帰りして口にすることといえば弟の結婚話です。

「そのうち自分で見つけりゃいいんだろ」
「その『そのうち』がちっとも来ないから言ってんでしょうがー!!」

 姉は弟の首ねっこをひっつかみ、がくがくと揺さぶりました。
 仕方なく、王子は誰でもいいという姉の発言に従い、見合いをすることになりました。








 人気のない朝の海辺を王子はひとりそぞろ歩いていました。

「見合いだぁ? ふざけんなっつーの」

 足下の砂を蹴飛ばしながらぶつぶつと呟いています。何のことはなく、姉の前では言えない不満を口にしているだけです。
 お隣の国、先年即位した同じ歳の王様が結婚することは聞いていました。昔留学していた頃の学友です。ただその余波が自分に来るとは思ってはいませんでした。
 王子自身は結婚する気など欠片もありません。まだまだ遊びたい年頃なのです。
 どんな相手だろうと断る気でいっぱいの王子でした。

「なんつって断るかな…」

 相手はもちろん、姉が納得する理由でなくてはなりません。いい歳して姉に頭が上がらない王子など相手も願い下げかもしれませんが。
 ぶつぶつ考えていた王子でしたが、ふと岩場の影が動いた気がして顔を上げました。

「誰がいんのか?」

 育ちの良さと言葉遣いの丁寧さが一致しない王子です。
 ついでに、臆するということを何より嫌う王子でした。おそれることなく大股で岩場に近付きました。

「……………ッ!!」

 びくりと、影が萎縮する動作がわかりました。
 薄布一枚で白い肌を覆っているだけの若い女性でした。強い光を宿した目が、王子を貫くように見据えました。むしろ睨んでいるようです。
 あまりにも不自然な場所と格好です。王子は一瞬唖然としたあと、自分の視線が不躾だったと気付きました。

「…悪ィ」

 王子は視線を逸らし、マントの肩留めを外すとそれが海水に濡れるのも構わず、彼女の身体に掛けてやりました。
 彼女は少し驚いた顔で王子を見つめ返し、ややあって静かに目を伏せてうなずきました。ありがとう、という意味なのでしょう。
 彼女こそ声を失った人魚姫なのですが、王子はそれを知りません。
 本当は一度会っているのですが(原典参照)王子はその相手と、今目の前にいる彼女が似ていると思いこそすれども、記憶が完全に一致しませんでした。

「…こんなとこで何してたんだ?」

 純粋で素朴な疑問を王子は思い出しました。
 答えようとした人魚姫は唇を動かしましたが、思いは言葉になりませんでした。
 王子を見つめる瞳が揺らぎ、すいと逸らされたとき、王子も彼女が口を利けないことに気付きました。

「お前、口が…?」

 人魚姫はそっとうなずきました。
 けれどこういった事態にも関わらず儚げな印象がない姫でした。もどかしげな口許、媚びない瞳と、凛と伸ばした背筋。
 たとえその内心が「どうしてこんな男に会いに来なきゃいけないのよ」であっても、王子にはわかりません。知らないことは時に良いことです。
 何にせよ、ワケありそうですが美人には違いないと王子は思いました。
 困っている女性を助けるのは物語の王子の専売特許です。
 そんなわけで、王子は彼女を城に連れて帰りました。



 続く。











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 「もしもシリーズ」第一期の人魚姫パラレル、再録です。

 ちょっと前のロミジュリのときに、そういえば人魚姫もあった、と思い出したところに、人魚姫再録を、というメールコメントをいただいたので出してみました。
 覚えててくださってありがとうございます!(2003年6月に書いたものです)

 人魚姫編は6話あるのですが、今回は1話から。
 …これで当面日記のネタには困らないわ(持つべきものはマメに書いてた過去の自分)。
 三上は絶対恐姉だな! という思い込みはこの頃からあったようです。

 例によって修正などをしていないので、読みにくい文節などもそのままです。2003年当時の雰囲気でどうぞ。




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