小ネタ日記ex

※小ネタとか日記とか何やら適当に書いたり書かなかったりしているメモ帳みたいなもの。
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無遠慮のひと(種/キラとカガリ)。
2006年08月05日(土)

 遠慮も許しも必要なく。









 ぽて、と体温の高い顎が肩に乗せられた。
「意外と器用だな、キラは」
「ぅわッ…!」
 モビルスーツの調整に使う端末機を裏返し、機械内部をいじっていたキラは、耳元で聞こえた声に心底から驚いた。
 すぐ視線を横にずらすだけで、鮮やかな金の髪が目に入る。キラの肩に顎を乗せる、気だるげな顔つきの少女。
 格納庫の端、床の上に直接座り込んでいたキラは彼女が近づいてきていたことにも気がついていなかった。
「…あのさカガリ、僕がいま何を」
「何してるんだ?」
「すぐメモリいっぱいになってフリーズしちゃうから、容量大きくしようと思って、交換してた」
「ふーん」
 カガリが声を出す都度、キラの肩も軽く上下する。カガリが顎を乗せているせいだ。否応なしにキラの頬に金の髪が当たり、体温が伝わってくる。
「…器用なんだな」
「そう? でもこの程度、誰でも出来るよ」
「うらやましい」
 呟いたカガリは、そのままキラの右肩に額を置いた。
 どうやら膝立ちで背後にいるらしい『妹』のその様子に、キラは目を瞬かせる。とても珍しい光景だ。
 ふとキラは今の時間を思い出す。
「ねぇカガリ、もしかして…寝てない? いま六時だよ?」
「お前だってそうだろ」
「僕らみたいのは昼夜逆転も有り得るの!」
 この有様では、おそらくお付きも連れずに自宅のアスハ邸を出て来たのだろう。いくら普段から何くれとこの国立研究所を訪れているとはいえ、ふさわしい時間というものはあるだろう。
 何せ、彼女はこの国の象徴なのだ。キラのような技術者兼パイロットのような立場とは違う。
「…なんか、考え事してたら眠れなくなって」
 くぐもった声がキラの耳に届くと同時に、抱きつく細い手も現れた。やわらかい体温。きょうだいのその温度に、キラは息を吐きながら淡く微笑む。
 これも、甘えている仕草なのだろうか。双子の片割れのこの姿がそうなのか、キラには判断がつかない。何せ自分たちが一緒にいられる時間はあまりにも少ない。
「…僕に話せる悩み事?」
 身体を軽くよじり、肩に乗せられた髪をキラは撫でる。
 キラの問いかけに、カガリは一瞬止まった後、小さく首を横に振った。
 昔ほど無鉄砲にならなくなった分、この『妹』はあまり多くを語らなくなったとキラは思う。経験を重ねていく政治家として、歳月を重ねていくひとりの女性として、感情の発露からは幼さが抜けていく。
 だからこそ今のような仕草は、キラにとって久しぶりで懐かしく、不謹慎なほど嬉しくなる。
「こんな朝早くに抜け出して、皆心配してるんじゃない?」
 キラはわざと明るい声を出した。髪を撫でる手を止め、ただその頭の上に手のひらを重ねるだけにする。
「眠い」
「え?」
「眠い、キラ」
 顔を上げないカガリが意固地な口調で、そう言い張った。
 全く、眠いと不機嫌になるんだから。
 変なところでわがまま言い放題になっている双子の片割れに、キラは脳裏で苦笑する。
「じゃあ、一緒に寝る?」
「うん」
 冗談のつもりが、本気でうなずかれ、言ったほうのキラが慌てた。
「…ごめん、やっぱり無理です。僕が皆に怒られる」
「何で」
「常識的にさ、成人過ぎた男女が一緒に寝るってまずいでしょ。いくら双子だって。お空のアスランから説教メールが届くよ?」
「知るか、あんな奴」
「……………」
 アスラン、また喧嘩したの?
 今は宇宙の母国にいる親友に、キラは心で問いかけた。
 合意の上で遠距離恋愛を開始した彼と彼女だったが、何だってああも通信手段で喧嘩を繰り返すのか、キラには不思議でならない。それでいて実際顔を合わせれば仲の良さを見せるのだから、画面越しの口喧嘩は彼らなりのコミュニケーションなのだろうか。
「…もうやめようかな、あんな奴」
 ふと顔を上げたカガリが不機嫌そうに呟いた。
 耳のすぐ上から聞こえてきたその声に、キラは気まずくなって視線を明後日に彷徨わせる。
 年々、倦怠カップル化しているような気がする。
「カガリー、僕はっきり言ってアスランの愚痴なら聞き飽きたよ」
「聞け! 親友として責任取れ!」
「ヤダ。お兄ちゃんもう生々しい妹の恋愛談は聞けません」
 てか聞きたくありません。
 当初のしんみりとした感慨を打ち捨て、キラはだらりと身体の力を抜いた。親友がらみだとわかった瞬間から、もうこの甘えは嬉しくない。
 この子も男の愚痴を言うようになって…、という感激はとうの昔に消えている。
 カガリがプラントに行くとき、日程の中にアスランの官舎泊まりの日があると知ったときの兄の動揺を妹は知るまい。
「キーラー!」
「はいはい」
 抱きつくから、ほぼしがみつく、に近くなった妹の頭をキラはおざなりに撫でる。
「大変だねーかわいそうだねーアスラン」
「何でアスランの味方するんだよ! バカキラ!」
「ちょ、耳元で怒鳴んないでよ」
 ああもう、全くしょうがない子だ。
 かつて彼女にそう思われていたに違いない十代の頃。女の子は早く大人になる。それを実感していたのは、あの頃のキラだった。
 それが今は逆になり、もう子どもではなくなったけれど。
「絶対、あいついつか泣かしてやる…!」
「カガ、カガリ苦しいってば! 僕の首絞めないでよ!」
「親友が身代わりだ!」
「横暴だって!」
 若干の身の危険を感じながら、キラは天井の高い格納庫に響く自分たちの声の楽しさに気づく。なぜきょうだいとじゃれあうのは、他人にはない親密さに心浮かれるのだろう。
 大人になっても、君が恋する相手が出来たとしても。

「どうせまた、アスランに言い負かされて悔しいんでしょ?」
「うるさいバカキラ!」

 この愛しさは、永遠に続いていく呪いのような絆だ。
 背後から首を絞められながらも笑ってしまう自分の気色悪さを、キラは諦観しながらためいきをついた。









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 双子が好きです(常識のように)。

 なんか我ながら意図せずつらつらと書いた双子ですが、理由があろうがなかろうがひっついてる彼らを書くのが好きです。読むのも見るのも好きです。
 キラにとって、そばで微笑んでくれるのがラクスなら、一緒にわんわん泣いてくれるのはカガリであればいいと思う。




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