小ネタ日記ex

※小ネタとか日記とか何やら適当に書いたり書かなかったりしているメモ帳みたいなもの。
※気が向いた時に書き込まれますが、根本的に校正とか読み直しとかをしないので、誤字脱字、日本語としておかしい箇所などは軽く見なかった振りをしてやって下さい。

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Time after time(デス種/アスランとキラ)
2005年03月23日(水)

 あの日の思い出は、いまどこにあるのだろう。








 離れた鐘楼から正午を伝える鐘の音が空に響き渡った。
 4月のオーブはこれから冬に向かおうとしていた。風は日々冷たさを増し、アスランの生まれ故郷である宇宙コロニーの恒常化された気候では考えられない空気が彼の身の回りを走り抜けた。
 人気のない修道院の庭は静謐そのもので、足音一つ立てるのも憚られる気がする。短い芝の下生えはところどころに野草が顔を出しているが、それも後しばらくで枯れるだろう。
 群島によって成り立つオーブは、神話によればハウメアという女神によって生まれ出た地であるという。そのために各地には女神を信仰する院が作られている。しかしオーブはさほど信仰が篤い国ではなく、無宗教だと公言する国民も少なくない。
 国の中枢を担う首長家もそれらに倣っておかしくないのだが、現在アスランが身を寄せている最大首長家はそうではなかったらしく、私財を通じていくつもの修道院を管理している。
 日ごろはその管理も代理人に一任しているが、今の当主である金髪の少女は時折それらの修道院を訪れる。様子見をいう目的もあるのだろうが、一人静かに過ごしたいという少女らしい思いもあるようで、アスランはその意図を深く尋ねたことはない。
 また俗世を離れたこの場所は、普段見えぬ存在と拘りなく対話出来る絶好の場所でもあった。
「アスラン」
 冬枯れに近づく庭をそぞろ歩いていたアスランに、やわらかな少年の声が掛けられた。
 振り返ると陽光に栗色の髪を撫でさせた幼馴染みがいつもの微笑を浮かべて立っていた。
「キラ。来てたのか」
「うん、ラクスとね。カガリは?」
「礼拝堂だ」
 今頃祈りの場で再会しているだろう少女たちを思い出し、アスランも顔を和ませる。
 かつての婚約者である桃色の髪のラクスはアスランと同じプラント育ちであり、明確な宗教信仰を持っていなかったようだがオーブの礼拝堂が持つ敬虔な雰囲気は随分気に入っているようだった。カガリとも会える場所という条件もあり、計らずも少女たちがこの場所を約束の場にしているのはアスランもキラも知っていた。
「もう冬だね」
 木立を眺め、目を細めたキラの隣でアスランは頷く。
「ああ。…俺の感覚だと、この時期は春なんじゃないかってまだ思うけどな」
「四月だもんね。プラントもそうなの?」
「あそこも四季は北半球だから」
「そっか」
 服のポケットに両手を突っ込んでいるアスランの群青色の前髪が風に揺れた。枯れた落葉が風に舞い、音を鳴らす。モノクロになろうとしている秋の庭。
「…桜、咲いたかな」
 キラは場所を言わなかったが、アスランには彼がどの地のことを言っているのかわかった。
「…わからないな。大戦で、月面も大きく攻撃されたはずだから」
 共に過ごした幼い日々。あの衛星の街には桜の木が多かった。どうやら初期の入植設計者は日系であったらしく、そのために自分の馴染み深い植物を持ち込んだようだった。
「カガリがね、見てみたいって言ってたよ」
 ふと思い出したように口を開いたキラの声音に、あたたかな笑みが混じった。妹のことを話すときよくキラはそのような口調になる。
「桜か?」
「うん。図鑑とか映像でしか見たことがないって。…余裕が出来たら輸入して育ててみたいって言ってたけど…」
「随分先だろうな」
 切なさに似た哀れみを覚えながらアスランはそう言った。
 今の彼女はそれどころではないだろう。アスハ家の当主として、オーブの最高指導者として、十七の少女には過剰としか言いようのない責任があの細い肩に掛かっている。余裕など、いつ出来るか想像もつかない。現に今のようにささやかな祈りを捧げることすら相当の時間を遣り繰りしなければならない状態なのだ。
「この近辺のどこかにあるなら、見せてあげられるんだけどね」
「そうだな」
「今更、花泥棒ぐらいねぇ?」
 笑顔で同意を求められ、アスランは呆れた視線で親友を見遣った。
「それは何か、お前は桜を見つけたら持って帰ってくる気なのか」
「いいじゃん」
「よくない。それは窃盗だ。犯罪だ」
 真面目な顔でアスランは説いたが、キラは意に介していないようだった。穏やかな雰囲気のままただ笑う。
「でも、一本ぐらいならいいんじゃない?」
「いいわけないだろう。カガリが知ったら怒るぞ」
「言わなきゃいいんだよ。頭固いなぁ、もう」
 仮定の話にはっきりと非難するアスランに辟易したのか、キラが唇を尖らせた。
 お前が柔軟すぎるところがあるんだ、とアスランは胸中で思ったが口にはせず、ただ息を吐いた。キラがこうまで言うということは、実際その場に巡り合ったら誰が止めても同じことをするに違いない。
「…そのぐらい、してあげたっていいでしょ?」
「…………」
「僕だってお兄さんなんだし、さ」
 やや視線を落とし、吐息のようにキラが言った。
「花の一本や二本、僕たちがしてきたことに比べればずっと」
「キラ」
 強い口調でアスランはその先を止めさせた。腕を伸ばし、手のひらでキラの後頭部を一瞬だけ掴む。
 指の中で硬質の髪がこすれる感触があった。
「そういうこと言うな」
 戦争をする側に回り、人を殺す罪を犯す。それに比べれば花泥棒ぐらい、とキラが思うのは仕方のないことなのかもしれない。けれど口に出し、言葉にしていいことではない。
「…うん」
 ごめん。
 ぽつりとキラが謝り、アスランは手を離す。
 二人ともわかっていた。あの戦争における自嘲も悔恨も、お互いの前でなければ言えないことがある。どれだけ心寄せる存在であっても、祈りの庭が似合う少女たちには聞かせられない。
「もし花泥棒なんてするなら、カガリには黙っておけよ」
「…いいの?」
「いいも何も、どうせお前やめたりしないだろ」
 強くなってきた風に乱れた前髪を押さえ、諦観を垣間見せたアスランにキラが笑った。
「さすが、わかってるね」
「長い付き合いだからな」
「じゃあ、そのときにはちゃんと誘うから、安心して」
「…勝手にしろ」
 こうしていつも共犯にされてきた幼い頃を思い出したが、アスランは明確に拒絶することはしなかった。
 緑の目に映る秋の庭。もうじき冬は来ても、南国のオーブにはそう深刻な寒冷問題にはならない。それでも、アスランが想う少女には未だ冬が続いたままだ。
 花一本でその心の慰めになるのなら、と願う彼女の兄の思い。
「…ちゃんと、見せてやれたらいいのにな」
 世界中のどこでも、行きたい場所に、望む人に、大切な人たちが自由に生きられる場所を。
 それはアスランにとって、キラと過ごしたあの月の街の記憶に重なる。
 長い冬の時代が終わり、後顧の憂いなく、少女がオーブの国母と呼ばれる時代が早く訪れればいい。
 緑の双眸に祈りを湛えたアスランの願いは風にさらわれ、傍らの親友の耳にしか届かなかった。








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 …割と捏造しすぎて最初の数行からしてすみません。オーブの国家形態とか植生とか民族風習とかそのへ、ん、…どうなんですかねー…(不明瞭のまま捏造)。

 倉木麻衣のTime after timeが割と私の中のキラとアスランのイメージなのです(ああ笑ってくれ…)。
 それで桜ネタはこの時期でないと書けないのでー、ということだったのですが、オーブの3〜4月って秋でした、よ! …という。南半球め。
 そして歌詞イメージなので曲タイトルとは全然合ってない気がする。

 今日用事があって本校舎のほうへ行ったので、講堂だけじゃなくて付近の教会やら礼拝堂やらぐるぐる見て回って来ました。異国情緒と高級住宅地っぷりに、自分が異分子の気分を力強く感じました。
 日本の寺社もあれはあれで静謐な雰囲気に満ちてますが、キリスト教はさらに馴染みがないだけに見てると色々面白いです(カトリックの人たちに怒られそうだ…)。
 …その前に本校舎の門が見つからなくて迷ったけどね。

<遠回しな私信>
 キラ様降臨@BGMミーティア、のシーンは無印の35話『舞い降りる剣』ですよー。ビデオだと9巻です。
 極端に言うと仲間の絶体絶命状態に天空から舞い降りる主人公、のシーンです。その前とそれ以降の主人公の悟りっぷりというか成長著しさというか、そのへんが相俟って『キラ様降臨』。
 個人的にはその直後の「連合、ザフト両軍に伝えます!」という一言に保志グッジョブ…!! と親指立てます。
 …一度でいいからアスランもあんな降臨してくれたら、とひっそり願っております。
</遠回しな私信>

 金出して借りたからには元を取る、ということで延々と種無印ビデオ9〜12巻がBGVとしてエンドレスです。アス→双子がこのへんが一番見られて楽しい(わかりやすいひと!)
 そしてフレイはこの頃の不安げな顔が一番可愛い(……)。
 旅行から帰った兄に「お前いっそDVDボックス買ってしまえ俺んとこでお前の名で注文しといてやる!」と言われました。やめて下さい兄上。赤貧の子に…!
 さー後は13巻でキラの「カガリを頼む!」発言をもう一回見るのだ(愛が局地的に偏りすぎ)。




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