小ネタ日記ex

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花の咲く頃とは(おお振り/三橋と阿部)(その他)。
2005年03月25日(金)

 狂い咲きの花を見た。








 ひらひらと白い花弁が空から落ちてきた。
 てくてくとアスファルトの上を歩いていた三橋は、思わず手のひらで受け止めたそれに目を瞬かせる。次いで、きょろきょろと周囲を見た。
「…? …??」
「上だ上、なんか落っこちてきたらまず上見ろ」
 三橋の頓珍漢な仕草は慣れっこになってきた阿部隆也はただ首を振るばかりの相棒ピッチャーに向かって、指を空に向けてみせた。
 阿部のその所作につられて喉を逸らして空を見上げた三橋の猫目が、アの形をした口と共に大き開かれる。
「さ…くら?」
「だろ。どう見ても」
 阿部の声は落ち着いていたが、三橋は同じようにはいかなかった。
 今二人が着ている同じデザインの学生服。中学時代のものとは違うそれに慣れてきたと感じるのは五月の今を過ぎてからだ。そして、三橋の記憶している桜の頃合というのは入学式がある四月であったような気がする。
 立ち止まったついでか、阿部が腕を組んで目を細めた。
「間抜けな桜だな」
「そ…うなの、かな」
「何かあって花咲かせる時期にタイミング間違えたんだろ」
 花にも本来の盛りの時期というものがある。しかし何らかの影響によってその時期を間違えてしまうことは稀にあるのだ。今二人が見上げている時期はずれの桜もそれに違いなかった。
「何か?」
 不思議そうに手のひらの白い花びらを眺めている三橋に、阿部は保護者か教師のような気分で自分の記憶を掘り起こす。
「…今年は寒すぎたとか暑すぎたとか、肥料が多いとか少ないとか、そういう要因じゃないのか? オレは専門家じゃないからよくは知らない」
「…そうなんだ」
「ちゃんとした環境でないと、花もキッチリ咲かないんだよ」
「ふー…ん」
 道端に留まりすぎて、通行中の自転車に嫌な顔をされつつも阿部は三橋を促して歩こうとはしなかった。最近この相方の手間のかかりようにも慣れた。
「お前だってそうなんだよ。わかってんのか?」
「へ?」
 いきなり自分に話題を移され、三橋が竦み上げる。いつまでもびくつく癖が抜けない彼に、阿部はこれも矯正してやりたい気持ちを強めた。
「どんな才能があろうが、周りが合ってなきゃどうにもなんないってことだ」
「う、うん」
「…わかってねぇのに頷くなっつってんだろ」
 べしりと頭をはたくと、三橋の顔が情けなく歪んだ。
「ご、ごめ…」
「謝んなくていいからそろそろわかれ。オレがその環境を作ってやるから、ともかくお前は自信つけろ。何なんだ今日のアレはァ?」
「あ、う、うんごめ…っ」
 はたいたついでに頭を掴んで揺さぶると、ぶわっと一気に三橋の目玉に涙が浮き上がってきた。それを見ると阿部の戦意も失せる。子どもだこいつは。
「…わかったら泣くな。いいか?」
「わ、わかった、阿部君」
 制服の袖口でぐしぐしと顔を拭う三橋を見届け、阿部は顎で行き先を促す。
「ほら、もう行くぞ」
「う、うん」
 気弱ならではのどもり癖も慣れればマシなほうだ。先に歩き出した阿部をすぐに追いかけてくる三橋は、つくづく性格がエースというものに似合わない。
 けれどそれでも構うものか。追いついてきた隣の相方に、阿部は強く思う。
 三橋を狂い咲きにしてきた輩を見返せるぐらい、自分が必ず立派に花を咲かせてみせる。たとえ本人にその自覚が薄くとも。
 遅く訪れた春の花から二人は並んで背を向ける。
 過ぎたその場所からは、未だ白い花が虚空を舞っていた。








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 何事も『初めて』というのは緊張と不安が拭い去れないものではありますが、初書きというのは実に「…ほんとにこれでいいのか」という自信の無さが出ます。口調が一人称が思考回路が。
 …本来初書きの作品は自分の手元だけに置いて、公表はしないほうがいい、絶対に。でも好きなんだ!という気持ちは誰かに言いたいこのジレンマ。
 君たちすごい好きなんだけど難しいよ三橋と阿部!!
 そんな思いが見事出ました、初おおきく振りかぶって。
 …ごめんなさい…。私の中の阿部のイメージは「お父さん」です。

 ってワケで、読みました『おおきく振りかぶって(ひぐちアサ/講談社・アフタヌーンコミックス)』。3巻終了時点までですけど。
 以前からしょっちゅう色んなところで見かけていたものの、手を出さずにいた、というよりもきっと身内友人の誰かが買うだろうなー…と待っていたのですが誰も購入しそうもなかったので自分で買いました
 人をアテにするなってことね(電柱に手を当てて)。
 とりあえず、アベミハという単語の意味がとてもよくわかりました。うん、アベミハだ。
「オレはお前がスキだよ!」なんて堂々と同性に言っちゃう男子高校生なんて、ホモ前提商業作品と同人誌以外で見たのは久々です。阿部隆也は武藤遊戯と並んでしまったよ。

 私はあんまり自分がハマったものを人にわざわざ勧めるほうではないのですが、これは素直に「読まない? 読もうよ! いいから読め!!」と押しつけたい作品です。
 あちこちで取り沙汰されるのは、されるだけの理由があったと良い意味で実感出来ました。

 ちなみに一緒に買った田中芳樹の新刊はまだ読んでません。




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