小ネタ日記ex

※小ネタとか日記とか何やら適当に書いたり書かなかったりしているメモ帳みたいなもの。
※気が向いた時に書き込まれますが、根本的に校正とか読み直しとかをしないので、誤字脱字、日本語としておかしい箇所などは軽く見なかった振りをしてやって下さい。

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2月3日後談(笛/渋沢と三上)
2005年02月06日(日)

 晴れ晴れとした気持ちで、彼は彼らの愛すべき寮を見渡した。








 私立武蔵森学園、中等部サッカー部員専用寮。その名を松葉寮という。
 渋沢にとっては中学校生活の思い出のすべてを支えてくれる場所と言っても良い。何といっても、ここは疲れた少年たちを毎夕迎えてくれる大事な家とも呼べる空間なのだ。
 しかしその四階建ての建物はいま、至るところに豆が落ちていた。

「豪快にばらまいたものだなぁ」
「…感心してる場合じゃねーよ」

 広い玄関ポーチに立ち、腕を組んでしみじみと呟いた部長を、黒髪の元背番号10番がほうきを携えた格好で睨みつけた。
 2月3日の夕刻、松葉寮には恒例行事がある。節分の豆まきだ。今年は鬼役がぎりぎりまで決まらなかったというハプニングはあったが、それ以外は滞りなく終了した。
 夕食に出た恵方巻きと、年齢分の炒った大豆。つつがなくそれらを食べ終えれば、部員一丸となって鬼退治という名のもとに鬼役に大豆をぶち当てるという一連の行事が一体いつから松葉寮の慣例になったかは、現在三年の渋沢も知らない。
 ただ、毎年やってるんだからやれ、と先代に言われたことだけが大事なのだ。縦社会の慣例はなかなか崩せない。
 たとえその結果が、毎年見ることになる寮中に散らばった豆柄の床であっても。

「今年の鬼はよく逃げたほうだな」

 すでに就寝時間寸前。同室の三上を伴い、寮内の様子をすべて見回った渋沢は苦笑した。
 鬼が逃げなければ、豆はそう散らばらない。松葉寮の豆まきに「福は内」という単語はない。かろうじて全員に先駆けて第一声の役を務める引退した元部長の「福は内、鬼は外」というひと言だけである。
 後はひたすら、三桁を数える部員が全員で豆を持って鬼を追いかける。部員イジメだと言われることもあるが、鬼役は出来るだけ上級生を選ぶことになっている。後輩が先輩を堂々攻撃出来るのだ。これを縦社会の鬱憤を晴らすいい機会だと考えている下級生もまた、多い。
 そんな理由で、この本来の意味を忘れがちな松葉寮版節分は今日まで存続し、今に至る。

「逃げたどころじゃねぇ。あのボケ、途中風呂場に隠れてたんだぞ? 風呂桶にも浮いてんぞ、豆が」
「豆風呂か。…豆乳風呂なら身体によさそうな気もするな」
「黙れ」

 コン、と薄茶の髪を箒の柄で叩かれ、渋沢は叩かれた部位を手で押さえながら三上を振り返る。痛いな、と非難の声を上げてみたが三上は聞く耳を持っていない。
 二月の夜風に黒髪を揺らす三上は明日早朝の掃除を考えるととても笑う気持ちにはなれない顔つきをしていた。
 一、二年生はまだ早朝練習がある身分だが、引退した三年は自主練習と高等部の合流練習以外の時間は自由だ。その結果、やはり掃除も3年生の役目となる。

「…どちらにしても、明日は久々の早起きだな」
「あーあ、折角最近ゆっくり寝てても良くなったってのによー」
「仕方ないだろう。去年の先輩たちもそうだったんだ」
「ちきしょ、ぜってー次の代にもコレやらせてやる」

 本番は明日だというのになぜか持っている箒で、三上は足元に転がる豆を適当に遠くへ飛ばした。
 彼の心情は、そのまま去年の代も抱いたものだろう。渋沢はふとそれが松葉寮の色々な行事ごとが続いてきた原因の一つではないだろうかと思った。
 コートを持たずに外に出ているためにかなり寒い。セーターの腕を何となく二人してさすりながら、渋沢は斜め上を仰いだ。
 ぽつぽつとまばらについている個室の明かり。もう寝ている者も大半だろう。電灯が点いているのは三年生の部屋ばかりだ。

「…まぁ、あと少しで卒業だ。多少念入りに掃除してもバチは当たらないさ」
「俺はぜってー豆しか拾わねぇ」

 ひねくれ者の元司令塔に、渋沢は小さな笑みを向ける。そうは言っても、三上がちゃんとこの寮に愛着を感じているのを彼は知っていた。
 あっという間だった三年が、もうじき過ぎようとしている。

「ここの節分も今回で終わりだったんだな」
「ってか何でもトータルで三回しかないだろ」

 そうだか、と言った後渋沢は寮を見上げ目を細めた。

「ここにいるときは、回数制限なんて考えもしなかった」

 わかっていたことだと、いつも最後になって気がつく。
 時間制限のある場所だとわかっているようで自分たちは忘れている。そうして過ぎ行くときになってやっと自覚するのだ。

「…まだ過去形にすんなよ」

 渋沢の隣で三上も思わず寮を見上げた。思い出を支えてくれたかけがえのない場所。生活している最中はそれを知らず、作り上げたものが重なって初めてこの寮という背景の愛しさを知る。
 もうじき卒業。最近とみに周囲で交わされるその言葉に込められた感傷を振り切るように、三上は寮の入り口に向かって一歩踏み出した。

「ほら戻るぞ。風邪引いて掃除なんてやってられるか。まだ明日があるんだよ」

 卒業なんて、まだ先だ。
 一月を切るまではそう言うだろう友人の背を、渋沢は一つ息を吐いて追いかける。

「そうだな。…じゃあ、明日は六時起きで」
「ハァ!? 六時なんてまだ外真っ暗だろ!」
「お前そのぐらいじゃないと起きないだろ」

 あっさり言い、渋沢は三上の隣に追いつく。
 慣れた扉を開け、靴を脱ぎいつも通りの場所に仕舞う。そんな『いつも通り』のことが、あと少しで過去の思い出になってしまう。そのことを三年生はそろそろ理解し始めた。
 現在が、いつか思い出になる。それを言葉に出すのはまだ出来ずにいる。
 冷たい二月の空気を遮断してくれる寮に入ると、渋沢は丁寧に鍵を掛けた。

 卒業式まで、あと一月と十日弱。








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 去年はまともな(まとも?)節分ネタで書いたので、今年は後日談で。
 でもこれもやっぱり2月3日に書くべきだったんですけど、……忘れてました(そういうオチ)。

 ちなみに去年のものはこちら
 さらりと捏造キャラ中西くんがいます。

 ところでエンピツさんで種ネタを書くのはどうも検索にひっかかることを考えると微妙なので、上のほうにある前のメモ帳が現在種専用小ネタ置き場になっています。

 そういや根本的に一日一食で生活しているせいか、あまりその日食べたものというものを覚えておらず、ちょっとは自覚しろと妹にやかましく言われました。
 しょうもないので、最近メッセの名前のあとにその日食べたもの(メイン)を入れてます(……)。

今日:水炊き
昨日:牛乳とみかん
一昨日:さつまいもとカレー
その前:カレー
その前:卵スープ
その前:水炊き

 たまに間食もしてますが(この時期大抵みかん)、本当に一日一食が基本。昼食べたら夜食べない。
 別に食べるのが嫌いというわけじゃないんですが、作るのが嫌いです。うわご飯作るのめんどい→じゃ食べなくていいや。…こういう思考回路。
 自分の食生活の自覚、というのが目下の目標です(低いよ)。なのでしばらく私のメッセアドを知っている人は、ああこいつ今日の食事これか、と思って下さい。でも決して突っ込んではいけないよ!  




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