小ネタ日記ex

※小ネタとか日記とか何やら適当に書いたり書かなかったりしているメモ帳みたいなもの。
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昨今の事情と彼らの場合(デス種/レイとルナ)
2005年02月13日(日)

 薔薇より甘い匂いがした。








 彼女が彼を見つけたのは、ザフト士官アカデミーの寮の入り口だった。
「あらレイ、何ぼーっと突っ立ってるの?」
 気安い間柄で、ルナマリアが軽く肩を叩くと金髪の彼が振り向く。半拍遅れて肩を叩いた鮮やかな金髪にルナマリアは思いがけず眩しさを覚えた。
 柔らかな金髪のレイは、ルナマリアの姿に眉一つ動かさず淡々と口を開く。
「ちょうどいい。何か袋のようなものを持っていないか?」
「袋?」
 一体何だと、ルナマリアはレイの士官学校の制服の影に当たるほうを覗き込む。各部屋番号が貼ってあるメールボックス。電子メールではない配達物を一時的に保管する場所だ。
「…あーららら」
 その場所を見たルナマリアの口から、思わず苦笑の声が漏れた。
 メールボックスの蓋が半開きになってしまうほど溢れた、レイ宛ての小包の群。かたちや大きさは様々だが、皆一様に包装が鮮やかだ。
 2月中旬のこの時期と考えれば、この包みの中は少女であるルナマリアには簡単に予測がつく。
「チョコの大漁ね」
「暇な奴はどこにでもいるものだな」
 ためいきがちになるレイの言葉は、皮肉ではなく単純に感想を述べているだけだ。それを察知し、この男相手に負が悪かったとルナマリアは贈り主の彼女たちにかすかな同情を寄せた。
「貰っておけば? いい夜食になるでしょ」
「あまりこういうものは好きではないな。腹になかなか溜まらない」
「……………」
 軍隊の男たちの食欲がどれだけのものなのか、ルナマリアもよく知っているが、いかにも貴公子然としたレイにそう言われるのは未だ違和感がある。
 世の中には需要と供給が上手いバランスを取れないところがあるが、レイ・ザ・バレルと乙女のバレンタインもまた当人同士の意識に大きな隔たりがあるようだった。眉目秀麗の佳人とはいえ霞を食べて生きているわけではなく、成長期のレイの食欲は立派に同年代の平均を超える。
「ないよりあったほうがいいじゃない。返しに行くのも面倒でしょ? 貰っちゃいなさい」
 もう運ぶのを手伝う気分でルナマリアはさっさとメールボックスを開いた。勢いで落ちそうになった端の一つを手で押さえ、立ったままのレイにぽいぽいと渡していく。
「…物好きも多いな」
「レイ、それあんまり外で言わないほうがいいわ」
 あなたほど淡白なのも少ないんだから。ルナマリアは小さく笑った。
 レイの腕の中に鮮やかなスカイブルーのリボンがひらりと舞う。濃茶、ピンク、純白、包み紙やリボン、飾りの花、どの包みも少女から背伸びした印象を受けるのは、レイの個性を考慮した結果なのかもしれない。
 同年代から一段抜き出た怜悧な容貌と、冷淡ささえ感じる表情の浮き沈みのなさ。そのミステリアスなところが同じ士官学校の少女たちには人気だが、一歩近い位置にいるルナマリアからするとレイはただのツッコミが得手の小姑だ。
「しかし、こういうものは受け取ったら礼をしなければならないのではないか?」
「あら、そういうのは知ってるんだ」
 やや大仰に肩をすくめて見せたルナマリアに対し、レイは心外そうに眉間にわずかな皺を刻んだ。珍しいものを目の当たりにし、ルナマリアは楽しげに笑う。
「返すも返さないも、レイの勝手よ。私としては、相手の意思に関わらず勝手に送ってくるような知らない人間にわざわざお金と手間かけてお礼するのも考えものだけど」
「…そうか」
「でも、贈った側はお礼とか返事とか色々考えながら待っちゃうものよねー」
「……どっちなんだ」
 腕一杯に包みを抱えて憮然としたレイを見て、ルナマリアはますます楽しくなる。普段やり込められているのは自分が多いだけに、相手のこういう顔がとても面白い。
 くるりとメールボックスに背中を預け、ルナマリアはレイに向かって小首を傾げた。
「好きなようにすれば?」
「…ほとほとお前は俺を困らせるのが楽しくて仕方ないようだな」
「何言ってるのよ。滅多に困ってなんかくれないくせに」
 いつもいつも、自分が年上の顔してくるくせに。
 そう呟くように見上げて唇を尖らせる少女の顔をした彼女に、レイは自分の行動を省みたが、稀に困惑させてくるのは向こうのほうが多い気がした。
「…お前よりもシンに相談したほうがよさそうだな」
「ちょっと、それひどくない?」
「暇なら残ったのを持って部屋まで付き合え。暇だろう」
「断定するなら『暇なら』なんてつけないで欲しいもんだわ」
 ぶつぶつと文句を言いつつも、ルナマリアは最後に一つ残っていた淡いベージュに濃い紅のリボンをかけた長方形の包みを手に取った。両腕にチョコレートを抱えているレイでは、部屋のドア一つ開けるのもままならないだろう。
 揺れる赤いベルベッドのリボン。このリボンも決して安物ではない。まだ任官もしていない身の上で、受け取ってもらえるかもわからない包みになぜ金銭をかけるかもレイにはどうでもいいことなのだろう。
 やめといたほうがいいわ、こんな男。
 彼の友人としてそれを忠告してやりたいが、口にすれば泣き出してしまう子が目に浮かび、言葉にしたことはない。
 ルナマリアは不意に顔をレイに向けた。
「レイ、胃腸は丈夫?」
「いきなり何だ」
「下痢とか便秘とかよくするほう?」
「…頼むからお前は少し慎みという言葉を思い出せ」
 眉をひそめ周囲をそれとなく見渡すレイに頓着せず、ルナマリアは息を吸って言い放つ。
「何日かかってもいいから、ちゃんと全部一人で食べるのよ。わかった?」
「…だから、急に何だと言うんだ」
 尤もな相手の疑問に、ルナマリアは視線を揺らがせずに胸を張る。
「私だって女の子の気持ちはわかるもの」
「……………」
 言いたいだけ言うと、身を翻して寮の階段へ向かって行く颯爽とした少女の後姿。数歩先に行くそれを見ながら、金髪の彼は疑問を浮かべずにはいられなかった。
「…お前に女を語られてもな」
 女の子、を自認するのなら、先ほどの台詞は少々いただけないのが一般常識というものだろう。
 それでも彼女は、レイの腕の中にある甘い菓子を贈ってきた相手と同じ生き物なのだ。納得しかねる部分があっても、同じなのだ。
 女心についての研究はその数秒で切り上げ、レイは紅色の髪を揺らす少女の後を追った。








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 友情なのか恋愛なのかよくわからないレイルナが好物の遠子です。
 こっちでオール種を書くのは初めてです(これまでは上のほうにあるメモ帳)。サンライズ二次創作ということで、検索機能つきのエンピツで書くのは憚っていたのですが、様子を見てきたところさほど検索にも引っかからないようなので、こっちでも種系書いてもいいかな、と。

 好意も敵意もさっぱりとした気性のルナマリーが好きです。ついでにバレルさんが変なところで淡白ゆえの面倒くさがりだったり、人間関係にはぼんやりしてる人だと楽しいな、という妄想です。
 …しかしなぜ、シンとレイは仲が良いのであろうか(どうやって親しくなったんだ)(成績順で振り分けられるごとに顔合わせていたから、というオチですか?)

 学園もので種をやるのなら、迷わず私はデス種赤服組の士官学校時代を書く(…学園?)
 通常学園もの、というとたぶんパラレルなんでしょうねー。…でも普段学園ものは絶対(笛で)書いてますから(同じものは飽きる理屈)。

 そんなこんなのレイルナでバレンタイン小ネタ。
 某Aづまさんのところのルナマリアがすごく可愛かったので、何となくああマリー書きたいなあ、と。てへ。私信ですみませんがものすごく可愛いと思います、あのルナマリア。




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