小ネタ日記ex

※小ネタとか日記とか何やら適当に書いたり書かなかったりしているメモ帳みたいなもの。
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今宵武蔵森で(笛/松葉寮)。
2004年11月11日(木)

 松葉寮の風呂が壊れた。








「…そういうわけで、当面の間風呂の代わりに学校プールのシャワー室を使うことになった」

 松葉寮、全員集合。
 その状態での談話室で、部長の渋沢克朗は渋面を隠そうともせずに皆の前でそう言った。秋の夕暮れと夜の間、もうじき夕食の時間だ。

「待ちやがれ渋沢!」

 全員集合のときのルール、挙手をしてからの発言の原則を覆し、三上がふんぞり返って座っていた椅子を蹴倒して立ち上がった。渋沢は嫌でも彼に話を振らなければならない自分の立場にうんざりしたが、逃げてもいられない。

「…何だ、三上」
「テメェ、いま何月だとわかってて言ってんのか……!!」

 三上の震えかかった声はその場にいる全員の心の声でもあった。三上の背後で、何人もの部員たちが同じようにうなずいている。
 それでも渋沢は彼らを説得せねばならない立場にいた。声がためいきにならないよう細心の注意を払い、断固とした声を出す。

「十一月だ」
「んじゃあこのクソ寒い冬に近づいてる時期、あのぬるい水しか出ねぇプールのシャワーで風呂代わりにしろって言う気か!」
「最初からそう言っている」
「てめ―――
「はーいハイハイ三上ストーップ。誰かタオル、お、間宮サンキュ」
「ぅ…っ、へめ、ごんど」

 瞬間沸騰器のようになった三上を、背後からホールドしたのは中西だが間宮から受け取ったタオルで猿ぐつわを噛ませたのは近藤だった。見事なスピード連携を決められ、三上が床に転がる。

「いっちょあがりってな。ちょお三上そこで黙ってろよ」

 わざとらしく手の埃を払う振りをした中西を三上が呪い殺しそうな視線で見上げていたが、彼は気にせず渋沢に向かい合った。どうせ心配した1年か2年の誰かしらが助けるのだ。あれはあれで人望がある司令塔だと誰もがわかっていた。
 目下副部長中西らの敵は、目の前に聳える守護神だ。

「んで? 渋沢?」
「…今朝早く、厨房のお湯が出ないという報告が学校側に提出された。昼間俺たちが出払っている間に業者が寮内を調べたところ、ボイラーの故障が発見されたそうだ。完全に直すまでの二週間、ガスは使えるが湯は出ない。よって大浴場の湯船は使用不可。その間の俺たちの風呂は近場の銭湯を利用するという案も出たそうだが、この人数の二週間分の費用も馬鹿にならないという判断によって学校内部の設備を使用するようにとの通達だ」

 渋沢の答えには淀みがない。彼も寮の管理を司る学園側の通達書類を散々読み込んだ結果に違いない。眉間に刻まれた皺が、渋沢も本当はこんな時期の風呂を取り上げられる苦難を喜んでいないと物語っていた。

「そりゃー…困ったなぁ?」
「…渋沢先輩、俺たちが自費で銭湯に行くとかはアリなんですか?」

 頭を掻いた中西の後ろから、おとなしく座っていた笠井が手を上げながら発言した。

「場合が場合だし、俺から時間外外出の申し出をすることぐらいは出来るが、一番近い銭湯は徒歩十五分で中学生料金でも350円だ」
「びみょー」
「だろう?」

 複雑を絵にした顔で相槌を打った近藤に、渋沢は困り眉で同意した。
 中学生の小遣いで一回350円の銭湯代は痛い。何かと多くのものに興味を示す年頃なのだ。かといって、泥まみれ汗まみれが当たり前の運動部員に風呂抜きというのも辛い。

「俺いいッスよ。プールのシャワーでも。一応お湯出るじゃないッスか」
「あんなん湯じゃねぇ!」
「ただのぬるい水だ!」

 唯一の賛成者かと思われた藤代の言葉には、多数の反論で反応と成した。
 武蔵森学園中等部のプール設備は老朽化が進んでいる。数年前に立て替えられた高等部のプール設備だけで予算が飛んでしまったという話がまことしなやかに学園内で流れている。そして古いだけに怪談にも事欠かない。

「っていうかよー、他の寮の風呂借りるとか出来ねぇの?」
「お、三上復活したか」
「うっせ、てめえら人のことなんだと思ってやがる」
「えー起爆剤?」
「そうそう、まずドカンと一発させたら後はお任せ、みたいな」
「このクソバカども…っ」
「まあいいじゃん。んで、渋沢、それって可能?」

 1年生数人に猿ぐつわを外してもらった三上が床の上で胡坐を掻く頃、話を向けられた渋沢は思案げに顎に手を当てていた。

「いや…まだわからないな。これから先生のところに行って具体的な話を聞くことになっているから…」
「じゃあ! それで頼んで他の寮の風呂借りればいいじゃん!」
「少なくともプールのシャワーよりマシだな」
「女子寮の風呂だったらどうするよ?」
「うわー中西くんそれイエロー。オヤジか君は」
「こら、お前らちょっと静かにしてろ」

 渋沢が同じ学年の騒ぎ合いを保父さんよろしく嗜め、三年主体で話し過ぎていたことのフォローをすべく残る一、二年生に向かって声を張り上げる。

「とりあえず、俺としては他寮の風呂を借りるか無理にでも銭湯通いぐらいのレベルで収めたいと思っている。皆毎日疲れているのに、風呂ぐらいゆっくり入りたいだろう。そういう方向で会議に掛けたいと思うが、何か意見はあるか?」
「あ、はい」

 すっと手が上がった。落ち着きのある猫目を見つけ、渋沢は仕草で促す。

「なんだ、笠井」
「あの…今日の風呂はどうするんですか? まだ入ってないんですけど…」
「今日に限っては、人数分の銭湯代を預かっている。一度に行くと迷惑になるから、何組かに分散して行くことに――
「え、マジ!? 今日銭湯行けんの!?」
「よっしゃ風呂風呂! 一番近いとこって桂湯だろ! あそこ温泉あったよな!」
「うっわ温泉とか言って俺何年も入ってねーし!」

 一気にまた騒々しくなった集団は渋沢の背後の学年だった。
 躊躇なく彼は振り返る。

「お前らいい加減に」
「なあ渋沢、やっぱ学年順に行こうぜ!」
「学年別でさー」
「黙れ」

 賑やかなのは結構だったが、騒がしいとはまた別問題である。
 渋沢はこれも自分の運命だと息を深く吸った。

「お前ら全員! 他の奴が戻るまでここで待機! 夕飯も一番最後だ!!」





 ぽちゃん、と冷めた湯気が雫となって湯船を叩いた。

「なー渋沢、そんな怒んなよ」
「俺ら騒ぎすぎて悪かったって、な?」
「でかい風呂で壁向いて入ってる背中なんて寂しいぞー」
「しーぶーさーわー」
「…お前らは当分風呂なんて最後でいい」





 その日の松葉寮は、部長の独断によりあろうことか三年一軍メンバー全員が閉店間際のぬる目の風呂と冷めた夕食を味わうという滅多にない下克上の夜となった。








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 お風呂が壊れちゃったんですよー。
 しょうがないので、洗面器にシャンプーとか一式入れてお隣に行きました。お隣と行っても庭隔てた祖父母の家です。言うなればおばーちゃーんお風呂かしてー。
 そしたら忘れてたんですけど、本家のお風呂って旧式なので広いのと天井高いのとで、寒いのなんのって。風呂は狭くてもいい、すぐあったまる風呂がいい。

 で、ついでなので風呂壊れた松葉寮を書いてみようとしたんですけど。
 案外こういうぎゃあぎゃあ騒いで遊んでるような松葉寮もあったらな、と。ええまあ今回よくわかんない筋になっちゃってますけど。サッカーだけじゃなくてただの小僧たちの部分も書いてみたかったんですけど。
 一年生を銭湯に引率して、騒ぐ一年生に注意したり、タオルを湯船に入れようとする後輩に「こらこらそういうのはしちゃダメなんだ」ってやんわり風呂のルールを教える渋沢さんとかも書いてみたかったんですけど。
 …男ばっかの風呂場書いてもねぇ(容姿の描写なら女の子のほうが楽しくて好きです)(女性の脚のかたちの描写を書くのが好きです)(変態か)。
 そういや今年の夏も渋ヒロインとか彩姉さんの水着話書けなかったな(忘れてたというのが正しい)。
 …なんか私すごい怪しい人になった気がする。




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