小ネタ日記ex

※小ネタとか日記とか何やら適当に書いたり書かなかったりしているメモ帳みたいなもの。
※気が向いた時に書き込まれますが、根本的に校正とか読み直しとかをしないので、誤字脱字、日本語としておかしい箇所などは軽く見なかった振りをしてやって下さい。

サイトアドレスが変更されました。詳しくはトップページをごらんください。

日記一括目次
笛系小ネタ一覧
種系小ネタ一覧
その他ジャンル小ネタ一覧



幕間より愛を込めて(笛/???)(未来)
2004年11月07日(日)

 今日は本屋で会った人の話をしよう。








 どかだかばさだか、ともかく何かと何かがぶつかって、落ちたらしい何かが床に当たる音がした。ううむ、何かなんて表現が多い曖昧な書き方だ。だけどまあしょうがない。だって俺そこ見てないもんね。
 あと一ヶ月ほどでクリスマスを迎えようとする日本列島は、すでにあちこちが緑と赤の二色使いだ。いいんじゃないかな、華やかで。…なんでほのぼの思える根性は生憎持ち合わせがない。
 自分の宗教でもないくせに騒々しく祭り上げる商業主義。天邪鬼らしい意見だと思わないか?
 俺の名前は高橋という。日本人の多い苗字ベスト5に必ず入る。良い点は読み間違いをされないところ。悪い点は同じ苗字率の高さでまぎらわしいところ。
 まあ今日はそんな高橋くんのお話であるわけだよ。
 今日の俺が遭遇したのは、やたらばかでかい本屋の一角でのことだ。

「…おお、見事にやったなぁ」

 思わず口笛を吹いてみたい。
 俺にそう思わせたのは、例の騒音のあった方向に行った途端目に入った惨状のせいだった。一つの棚の中身全部がひっくり返っている。本のサイズからいって文庫本の棚だったに違いない。

「す、すみません」

 音を聞きつけてやってきた店員や、偶然近くにいたらしい客たちの何人かに、申し訳なさそうに謝っているのは若い女の子だった。若いっつっても俺とあんま変わらないだろうな。
 色を変えていない黒髪を片手で抑えながら、彼女はしゃがみ込んで本を拾っている。店員や通りすがりの客たちも同じように拾っている。
 ここでただ見てるっていうのも、なんか気まずいよなぁ。
 面倒だけど乗りかかった船ってやつに、俺も乗ってみることにした。

「どうもすみません」

 たまたま手を伸ばした宮部みゆきが、主犯者の彼女の手のそばだった。床に膝を付き合わせたような体勢で目が合う。
 目が覚めるような美人とは言わないけど、綺麗な黒髪と目をした子だった。緑なす黒髪と白い肌。純和風を女の子のかたちにしたらこういう印象かもしれない。

「…市松人形みたいって小さい頃言われなかった?」

 立ち上がって、後はこちらでと言う店員に俺は宮部みゆきとついでに拾った村上龍を渡す。
 黒髪の彼女は、一瞬きょとんとしたあと吹き出すように笑った。

「よくわかりますね」

 オッケ、わりと乗りのいい子だ。ここでつんとするような子じゃあわざわざ船に乗った意味がない。俺の人生は常に楽しいものを求めるためにあるのだ。
 だけど俺の思考は、次の彼女の仕草でちょっと影を帯びた。手を例題になった髪に当てて、懐かしそうに言う。

「小学生ぐらいの頃、髪を切ったらいとこにそう言われました」

 あ、そうっすか。
 で、その左手の指輪は。薬指に燦然と輝いちゃってるそのアイスブルーの石がついたやつ。
 いやさ、俺だって本気でこの子を口説くとかそういうの考えてたとかじゃないわけよ? だけど出会い頭からそう別の存在がはっきり見えちゃうと萎えるのが男の馬鹿さ加減だと思うね、俺は。
 黒髪の彼女は片づけを請け負った店員たちに深々と頭を下げて、ふとまだそこにいた俺に視線を向けた。一瞬考え込むように首を傾げると、さらりとその髪が揺れる。

「…どこかでお会いしたこと、ありましたっけ?」

 いえいえありませんとも。
 俺の特技は一度会った人の顔を忘れない、だ。いつぞや友人に言ったらひどくびっくりした顔をして「すごいな、どうやったら出来るんだ?」とその秘訣の教授を乞われた。
 秘訣なんてない。ただ覚えるだけだ。そう答えたら憮然とされて「…それが出来ないのが普通なんだ」と言われたのを覚えている。ああそうだ、しばらく会ってないけどあいつ元気かな。

「残念だけど、ないかな」
「そうですか…」
「彼氏と似てるとかじゃない?」

 頑張れ世界の天邪鬼王選手権に立候補しそうな俺!
 あるかないかもわからない胸の痛みよりも、俺はこの相手の面白そうな反応が引き出せる台詞を選ぶ。会話で狙うのは相手の心証度なんかじゃない、ウケだ。

「……似てないかなぁ?」

 じーっと俺を見た挙句、黒髪の彼女は疑問系ながらはっきりと否定した。
 左様でござるか、姫。

「うちの相方さんはすっごい美人さんなの」

 にっこりと、本当に自慢げな笑顔で彼女はそう言った。
 うーん、お嬢さん気付いてますか、それってつまり俺は美形じゃないって言ったも同然なんだけどね。まあどうせ俺の顔の評価はさわやか系だとか言われたことは数回あっても、美人系じゃないよ。

「へぇ、美人さん」

 それでもわざわざ好意的な驚きを示してやる俺。いい奴でも何でもない。こういうときは否定するより肯定するほうが相手は喜んでますます喋ってくれる。どうせ誰かと話すなら楽しく会話したほうがいいに決まってる。

「そう、美人なの。あ、男の人だけどね、美人なの」
「そりゃすごい。美人だと思わせる男なんて滅多にいないのに」
「かっこいいよ」

 臆面なく言わはりますなあ、このお姫さんは。
 なんてどこだかわからない方言で俺は内心で苦笑した(俺は生粋の相模生まれ武蔵野育ちだ)。髪の艶よりずっと綺麗なきれいな笑い顔。品があって幸せそうな。
 きっと、いいとこのお嬢さんで蝶よ花よと可愛がられて育ったんだろうな。…とか安直には思わないけど、それが真実でも俺は納得した。

「あ、英士!」

 唐突に聞きなれない響きが彼女の口から出た。それが固有名詞だと気付いたのは、俺の斜め後ろあたりに気配を感じてからだ。

「…気付いたらいないと思ったら、何してんの」

 …何だ、この男。
 俺はまずそう思った。
 背が高い。身長170センチ後半の俺と大差ない。黒い髪に黒い目に黒いハーフコートとブラックジーンズと、やたら黒づくしだ。コートの開きから見えるシャツだけが淡い色で、それがどうにか黒子のようになることを防いでいる。

「…ちょっと本棚倒しちゃったの」
「本棚? どうやったらそんなの倒せるの」
「知らない。倒れたの」
「知らないじゃないでしょ。迷惑掛けた人に謝った? …もしかして、こちらの人?」

 説教のついでのように、黒い彼が俺のほうを見た。切れ長の一重瞼と通った鼻筋。目元は涼やかで肌がきめ細かい。彼女と同じような艶のある黒髪といい、顔のパーツとバランスの良い額といい、認めよう、美人だ。
 美人は彼女の答えを待たず、すっと静かに頭を下げた。

「ご迷惑をお掛けしたようで、申し訳ありませんでした」
「あ…いえ、大したことじゃないですから」
「ちょっと英士! 私まだ何も言ってない!」
「うるさいよ」

 ちらりと一瞥しただけで、声を張り上げた彼女のほうが不服そうに口を閉ざした。ううん、すごい影響力だ。まあこの美人の一睨みは相当怖そうだけど。
 っていうか、なんで俺は男に美人という仮名をつけなきゃならんのだ。
 改めて俺が黒髪の一対を見返したとき、それこそ俺は美人のほうの黒髪がどこかで見た顔であることを思い出した。

「……かく」

 そうだ、そんな苗字だ。
 上も下も、ちょっと変わっている名前だから覚えていた。

「郭英士」

 本人より先に、彼女のほうが彼氏の前に進み出て答えた。
 滲み出る誇らしげな笑み。まあそうだろう。それだけの価値がある男だ。
 郭英士。ちょっとした縁で、俺は彼の出たサッカーの試合を十代の頃からいくつか生で見ていた。俺の友人がその一員だったのだ。
 直接喋ったことはない。だけど、知っている。
 俺の目に確信が宿ったのを察知したのか、黒髪の美人は彼女をさりげなく後ろに押しやって口を開いた。

「…俺のことを?」
「知ってるよ。アンダーいくつの世代からね。渋沢克朗、知ってるだろ?」
「ええ」
「あいつと中高一緒だから、あいつの試合見るときに一緒に見た。ここで会ったのは偶然だけど」

 うーん、世界って本当にときどき局地的なほど狭いよな。
 翻せばこの黒髪の美人は、俺の友人の友人、てことになるのかな。ん? チームメイトは友人と違うか。
 しっかし、試合中とは随分印象が違う美人だ。確かに試合中の『郭英士』も俳優みたいに美形だと思ってはいたけど、今よりもっと迫力があった。本屋での郭英士はわりと雰囲気がおとなしいというか、穏やかというか。
 ま、試合中とそれ以外の空気を比べるのは集中力が桁違いだからしょうがないんだけどさ。

「そっか、郭英士か。…あぁ、悪い、呼び捨てして」
「いえ…」

 控えめに相槌を打った郭英士は、辞去のタイミングを計り損ねているようだった。
 記憶にある彼のプロフィールでは、郭英士は俺より学年が一つ下のはずだ。だけど背負う空気は俺よりもっと厳しい世界で生きるそれで、あぁなんだろう、やっぱりあの友人と同じ世界の匂いがした。

「…それじゃ、俺はこれで」

 もともとここへは本を買いに来たんだった。
 今更本来の用事を思い出して、俺は軽く会釈した。郭英士の隣で黒髪の彼女が同じように会釈を返してくれた。黒髪の二人は、似合いの一対だとそのときふと思っちゃったりしましたよええ。

「名前は」
「え?」
「来週、たぶん渋沢に会うと思うので、伝えておきます」

 怜悧な黒い双眸で、郭英士は俺にそう言った。生来の真面目さなのかはたまた気まぐれか。わからないけど、俺は思わず笑っていた。

「高橋達也。…渋沢に、よろしく」

 今はもう疎遠になりかけている、あの学校時代の友人は元気かな。らしくないセンチメンタルさが郭英士のおかげでよみがえってしまう。
 そうだな、いつか俺からあいつに会いに行けたらいいかな。中学高校時代から出来杉くんみたいに何でも出来て、今ではすっかり有名人になってしまったあいつに引け目を感じなくなった頃に。


 …この遭遇から一週間経たないうちに、俺はあの黒髪の二人が何気に婚約しただとかそういう話をスポーツ新聞で読んだ。
 へぇそうですか、そりゃめでたい。
 そのついでに蹴球界のロマンスだとかつまんない煽り文句で始まった、これまた面白おかしく書き立てたとしか思えない記事で俺は彼と彼女の事情をちょっとだけ知ってしまって(本当かどうかは知らないけど)、あの彼女をただのお嬢さんだと思った自分をほんの少し反省した。
 でもきっと、その記事を書いた記者は彼らに嫉妬したんじゃないかな。
 だって俺がなんか思うところあったから。
 ま、幸せそうでいいんじゃないっすかね。何がどうであれさ。
 とりあえずあの子は郭英士が美人で嬉しそうだったし。俺はちょっとだけ面白かったし。

 会いたい人に会おうとせずに会えるなら、きっと俺の人生はもっと楽しい。
 巡り巡る時間の中で、俺が次に遭遇するのは誰なんだろう?
 今はひとまず、これにてしばしの別れということで。








************************
 ある意味であるシリーズの完全ネタバレ的な話。
 高橋達也の未知との遭遇その2。もう何ていうか笛じゃない。
 前回はこちら
 ただ単に英士と美人だと表現したかっただけの小ネタでもあります。二十歳過ぎた英士は美人になるに違いないよ(願望)。

 そういえば、なんかずっと咳が出てるのですが、薬がころころ変わってそれでも治らないって一体。最近はもう病院で迷うことはなくなりました。
 薬がすごく変わるんだけど、と現役看護婦の友人に相談してみたら「それはね〜医者がヤブなんだよ〜!」と言われました。夜勤明けのナチュラルハイで言われた言葉をどこまで信じていいものか。
 看護婦さんも毎日大変そうです。覚悟してその世界に入っても大変そうです。飲みのたびに「あと二年で絶対転職する〜」と叫ぶのもどうなんだろう。おっとりしてるけど芯の強い子のはずなんですが。

 そうそう、それで上記の看護婦を含めた高校時代の友人たちと会ってきたのです(昨日)。
 絶対にオタクではないのですが、みんなマンガやゲームに寛容だったり好きだったりする子たちばかりなので会話が安心して出来ます(そこなの)。
 そうしたら一人の子が銀魂にやたらハマってて驚きました。そしてデスノートまで。いや、いいんですけど。
 しかし私の友達っていうのは、わりとさっぱりした気性の子が多いというか、ほとんどが恋愛とか男に比重を置かないタイプばかりで。精神的にすごい自立してるタイプなんでしょう、きっと(全部の友達がとは言いませんが)。
 結婚はしてもいいけど専業主婦は絶対に嫌だ系が多いです。してもいい、っていうのがポイントです。彼氏形無し。
 ついでになんか皆やたらと個人主義なのと割り切りの早い人たち。いや、これは高校時代の友達に限りますが。そして実行力もある人たちばかりなので、計画ごとは私全部任せっぱなしー(どうだろう)。
 ついでに今気付きました、私の友達っていうのは言葉遣いが綺麗な子ばかりです。食う、ではなく食べる、と言う子が圧倒的。落ち着いた子が多いっていうのかな。敬語に苦労するって話をまず聞かない。
 まあ私の性格と付き合えるんだから慈愛精神の強い人たちであることは確かじゃないかな(微妙)。




<<過去  ■□目次□■  未来>>

Powered by NINJA TOOLS
素材: / web*citron