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2005年07月15日(金)
朝、先輩が無表情な幽霊のようなうつろな顔で出勤して来ました。 39度ほど熱が出ているそうです。 しかし、帰れないようです。 営業に移っただけでなく、先輩は営業部長に昇進しました。 微笑みの貴公子は降格し、位置的にはつばさの上司になりました。 長年営業をやって来た人から一気に引き継ぎ、一気に把握しないと鬼さんに叱られるので、精神的な負担はかなりのものだったはずです。
人間、何かから逃げたいと思ったら病気になるのです。当然の反応。 しかし、鬼さんからは許可が出なかったようです。 だから来るのも無理に来て、ボーっとした頭を抱えながら必死に業務をこなしているようでした。 それは夕方頃になると無残なものでした。よく逃げ出さないものだと思いました。
旦那さんとの軋轢も激しくなってきているでしょうし、何で自分がこんな目にと思いもするでしょう。 しかし投げ出すのは人間的に難しい位置に行ってしまったし、引き継ぐ相手の微笑みの貴公子はけっこう読めない男で手こずっているのです。
微笑みの貴公子は何でもはいと返事をし、親切であり、良い人に見えます。 何よりも元が可愛らしい顔をしていて、その可愛らしい顔を惜しげもなく活かして来たと思える風情の表情をして見せます。 あのニコニコで何もかも封殺されて来たつばさにすれば、それがやつの甲斐性かと思いましたが、現実は打っても蹴っても響かない男だったのです。
以前は要望を出しても経費がかかるので、笑顔で黙殺しているのだと考えていました。 それはある意味職責のある人間の取るべき行動です。 ところが社員になって毎日毎朝のミーティングで、叱られまくっている姿を見ると、ちょっとびっくりの使えなさでした。 と言って、無能とまでおごった事は言いません。
この人は必要な事をやる人ではなく、必要な事でもやらなくて済むならしない人なのです。 だからびっくりするほど叱られるのです。そして倒れる事も顔色を変える事もない。 いや、どっちかと言うと、鬼さんをにらみ返しています。 そりゃ、睨むような言い方をしますけどね、鬼さんは。 性格や人格を傷つけてでも物を言いますから。 で、そこの部分をとうとうハッキリ言われてしまいました。 「あなたは最初はいい人だと思われる人だけど、時間が経つにつれていい人じゃない人だと解かる」 社員じゃないうちは、つばさも騙されました。結果的に困るので、いい人じゃない。
世の中、笑顔が素敵な人は性質が悪いと言う実例の一つです。
例えばある意味、この人は愚痴の相手に最適です。 誰にも言わない。少しくらい漏れて欲しいと思いながら愚痴は言う訳で、ここまで完璧にここだけの話にしてくれる人もいないぞと思います。 かといって口が堅いのとは違うのです。
では、微笑みの貴公子は無能ではないと言う一つに。 何よりもこの微笑みが武器なのです。 うちは小さなベンチャーで、量販店でイベントをするにもとても制限があります。 大手ソフト会社が抑えてるそのスケジュールを、鬼さんの指示で彼は掛け合いに行きました。 あの微笑で、貰って来たのです。 他の誰かでは取れなかったのではないかと思います。 一見、腰が低い。と言うか、腰は低い。穏やかに話し、笑顔は絶やさない。愛嬌のある顔の造りである。 それを愛らしく見せる、かと言ってカマっぽく見える訳でもない立ち居振る舞いとか、彼は30年余の人生で完璧に身に付けています。 それでも不遜な挙動をすると営業を退かされました。
でも、社内の仕事は微笑では動きません。何より微笑みシャットアウトは愚の骨頂。 引き継ぐんですから。
鬼さんの厳しさと、貴公子のぼんやりに挟まれて、39度の熱が下がる事無く、「残業」と言われる時間まで頑張った先輩はフラフラと帰って行きました。
こんな思いをして働いてる社員も、派遣時代、あんまり見かけた事がありません。 うちは特殊だとは思っているけど、特別なのでしょうか。
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