2024年11月05日(火) |
もう誰も切れそうにない |
朝は肌寒く曇り空であったが日中は秋晴れとなり気温も高くなる。
七分袖のチェニックは母の形見。見つけた時にはまだ値札が付いていた。
おそらく買ったものの着る機会がなかったのだろう。
少し派手だったのかもしれない。ピンク系にグレーの模様がある。
私もピンク系は苦手であったが着てみるとけっこう似合っていた。
明るい色の服を着ると気分まで明るくなるようだった。
母を着る。母と一緒に仕事に行くような気がした。
連休明けの仕事の何と忙しかったことだろう。
義父は休みなく働いていたようで2台の整備が完了していた。
とても自慢気な顔で私と同僚に納車を急かす。
その口ぶりがとても荒くなんだか責められているように感じた。
喫煙所にも行けず苛々がつのる。トイレまで我慢していた程だ。
やっと納車が完了したら今度は車検受けの車を引き取りに行く。
義父の友人なので自分が行けば良いのにと思ったが
雷が落ちそうなのでとにかく言う通りにするしかない。
同僚も大きな溜息をついていた。決して私だけではなかったのだ。
午後には義父も落ち着きまるで別人のように穏やかになる。
まだもう一台厄介な修理があり今日中に済ませたいようだった。
昼食をさっさと済ますとお昼休憩もせずに頑張っていた。
事務所に来客があり私が応対したのだが思いがけないことに
私と話したくて訪ねて来てくれたようだった。
そのお客さんも足が悪く難儀な日々を送っていて見るからに辛そうである。
「もうわしはいかん、なんちゃあ出来んなった」と嘆く。
そのことを奥さんから毎日のように責められるのだそうだ。
奥さんも苛立っているのだろう。その気持ちも分からないこともないが
長年連れ添うた夫婦だからこそ思い遣る気持ちが大切に思う。
あまりに嘆くので他人事には思えず憐れに思えてならなかった。
「また辛い時には話しに来たやね」と宥めると笑顔を見せて
「おう、また来るけん」と手を挙げて帰って行った。
私は夫に助けれながら何とか日常生活を送っているが
それは決して当たり前の事ではないのだと改めて思った。
足の痛みだけではないその上に老いを重ねて生きていかねばならない。
10年があっと云う間である。それだけ死も近づいて来るのだ。
無理をしてでも生きなければならない。痛みなど些細なことにも思える。
日没時、今日も一番星と三日月を見た。
月は昨日よりも少しふっくらとしていてもう誰も切れそうにはない。
傷ついてはいけないのだ。嘆いてはいけないのだ。
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