猛暑が少し和らぐ。とは云え猛暑日には変わりないが
35℃だとずいぶんと過ごし易く感じた。
人間は暑さに慣れるのだろう。耐久性に優れた生き物である。
今朝は工場に真っ黒い蜻蛉が入り込んでいた。
飛ぶこともせずに一ヵ所に留まり羽根を広げたり閉じたりしているのだ。
一瞬母ではないかと思う。そうして次第に母なのに違いないと思う。
「羽黒とんぼ」と云うのだそうだ。昔からの言い伝えで「神様とんぼ」とも
あの世とこの世を結び亡くなった人の魂が宿っているのだそうだ。
母の初盆供養のある日だったのでそう信じずにいられなかった。
人一倍霊感の強い母であった。じっとしてはいられなかったのだろう。
「ちょこっと帰って来ちゃった」とお茶目な声が聞こえたのだ。
母らしいなと思う。気づいて欲しくて躍起になっていたのに違いない。
午後からお寺さんが来てくれて初盆供養が執り行われた。
義父と二人きりのつもりであったが伯母や叔母も来てくれて嬉しかった。
母もきっと喜んだことだろう。「まあ夢に餅」と笑顔が見える。
読経が終りお焼香の後皆でお念仏を唱えた。
「南無阿弥陀仏」が心に沁みる。何度も何度も唱え続けたのだった。
やはり母は死んでしまったのかなと思う。
これが悪ふざけのはずは決してなかった。
そう思いつつも母は主役になり切って演技をしているのでないか。
注目されて悦に入っているのでないかと思う。
今にマイクを握りしめて演歌を歌い出すような気さえしたのだ。
もう何処にも居ないのではない。
今朝この目で確かに母の姿を見たのだ。
神様とんぼはふらりと何処かへ飛んで行ったが
母の魂はまたきっと会いに来てくれることだろう。
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