午後7時。外はまだ薄明るく雨に煙る川向の山が見えている。
真っ直ぐな雨だ。正直で規則正しい雨だ。
近所の県道沿いに大きな枇杷の木があり実が鈴なりになった。
ひたすら雨に濡れているのを見るとなんだか切ない。
収穫はしないのだろうか。このまま朽ちてしまうのだろうか。
昔は子供のおやつになったが今の子供は喜ばないだろう。
実の割に種が大きい。種の無い枇杷など聞いたことがなかった。
GW最終日。静かな雨音を聴きながら気怠く過ごす。
鬱ではないと思うのだが明るい気分にはなれなかった。
深い谷底に居るようである。空を見上げることもせず
ひたすら地面に爪を立てているようだった。
気分転換も出来ない。自分が自分で無いようで落ち着かない。
起きていると煙草ばかり吸ってしまうので苛立ちが募る。
朝のうちにサニーマートへ行ったが満車状態であった。
開店と同時に来ればよかったと悔やまれたが
仕方なく入口近くの駐車区域ではない場所に車を停める。
咎められたらその時のこと。傘を差し杖を付くのがやっとであった。
お昼はお好み焼きにした。夫がホットプレートを準備してくれる。
見た目は美味しそうだったがなんとなく粉っぽい。
どうやらうっかりしていて卵を入れ忘れていたようだ。
「まあええじゃないか」と夫が言ってくれてほっとする。
午後は茶の間で横になり夫と録画番組を見ていた。
いつものことだが夫優先でまずは「鬼平犯科帳」である。
途中から眠ってしまって目が覚めたら「松平なんとか」だった。
松平健ではない。夫が教えてくれたが今はもう忘れてしまった。
またうとうとと眠ってしまい3時前にやっと目覚める。
よろよろと二階の自室に行き短歌を三首書く。
今日は我ながら上出来だと思ったのだが単なる自惚れだろう。
それでいいのだと開き直る。自分が好きだと思えるのが一番だ。
ぽつぽつと「いいね」を頂く。本当に有難く感謝しかない。
それから乾燥機から大量の洗濯物を引っ張り出した。
私が休みだと娘は一切ノータッチなのだ。
平日は頼りっぱなしなので畳むのは私の役目である。
あやちゃんと娘のTシャツの区別がつかない。
もう着る物はすっかり大人サイズになった。
5時までまだ時間があったのでまた茶の間で横になる。
今度は「三匹が斬る」今日もたくさん死ぬのだろう。
何しろ正義の味方なのだ。悪者は成敗しなければならない。
ふと「暴れん坊将軍」の話になり吉宗も悪者を殺すのかと夫に訊いた。
そうしたら夫が「あれは峰内だ」と教えてくれてほっとする。
いくら将軍吉宗でも悪者を斬り殺すわけにはいかないだろう。
でも「三匹が斬る」は違う。確かに人の血が流れているのだった。
だからと云って殺人罪で奉行所に引っ張られることはない。
「お咎めなしなのさ」と夫が笑いながら教えてくれた。
夫と一緒に時代劇を見ているとけっこう勉強になって面白いものだ。
夕飯は我が家の定番「天下茶屋」であったが
あやちゃんが気に入らない様子でしばらく食べようとしなかった。
娘が宥めてくれてなんとか「もやし」だけは食べてくれる。
「あやちゃんありがとうね」と声を掛けたらにこっと微笑んでくれた。
気分が沈んでいる時は些細なことで泣きそうになるが
それはあやちゃんも同じなのだろうと思った。
みんなみんな自分の機嫌を取るのに精一杯である。
雨はまだ降り続いているが明日は青空に会えそうだ。
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