氷点下の朝。日中も雲が広がり肌寒い一日となる。
大量の洗濯物が乾ききらず乾燥機のお世話になった。
お隣のアロエの花が咲いていて鮮やかなオレンジ色。
アロエと言えば熱帯の植物のようなイメージがあるけれど
毎年寒の入りをした頃に咲くのが習いなのだろうか。
お隣のご主人は昨年暮れから施設に入居したようだ。
老々介護で奥さんも大変な苦労だったことだろう。
お隣だと言うのに奥さんの姿もしばらく見えず少し気になっている。
ご主人は偶々なのか息子の勤めている施設に入居していて
息子の顔を覚えているようだけれど「ケンジ君」と呼ぶらしい。
それはじいちゃん(夫)の名で愉快なことでもあった。
息子は否定もせずすっかりケンジ君になりきっているらしい。
介護の現場では「否定」は厳禁なのだそうだ。
それは認知症のあるなしに限らずのことらしい。
ストレスの多い職場に居ながら息子の笑顔が見えるようである。
そう思うとお隣のご主人に感謝しなければいけない。
息子はなぜ介護職を選んだのか今でもよくわからないと言う。
工業高校を卒業したのだからてっきり技術職に就くと思っていた。
就職難の時代でもなく就職率は百パーセントだった頃のこと。
いきなり介護の勉強をしたいと言い出したのは寝耳に水のことであった。
それから介護福祉の専門学校に通い始めた。
我が家は相変わらずの貧困生活で教育ローンと県の奨学金だけが頼り。
息子は学校が終わると深夜までコンビニでアルバイトをしていた。
今思えば本当によく乗り越えた2年間だっと思う。
無事に卒業し就職してからもう22年の歳月が流れた。
今では介護のプロなのかもしれないけれどやはり心配は尽きない。
幾つになっても我が子は子供のままなのだろう。
幸い今の職場は今までで一番楽なのだそう。
過酷な現場を乗り越えて来たらこそそう言えるのだろうと思う。
明日も「ケンジ君」と呼ばれつつ走り回ることだろう。
ふとお隣のご主人にアロエの花を見せてあげたくなった。
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