最高気温が32℃。一気に猛暑が和らぐ。
午後から雨の予報だったけれど未だに降らずにいる。
薄っすらと茜色の空を仰ぎながらこれを記し始めた。
朝の国道で見覚えのある後ろ姿。
その歩き遍路さんはすっかり顔なじみのMさんであった。
交通量の多い国道でのことで停車が出来なかったけれど
少しスピードを落としたらMさんが気がついてくれて手を振ってくれた。
私も窓から手を振る。ほっこりと笑顔になり清々しい朝のこと。
仕事を終えて帰り道。今日は朝来た山道をゆっくりと帰る。
そうしたら山里の道でまたMさんに会えたのだった。
車を停めて道端でつかの間だったけれど語り合うことが出来た。
健脚のMさんにもこの夏の猛暑はひどく堪えたらしい。
それでもひたすら歩き続ける終わりのない旅であった。
帰る場所がないわけではない。帰らないと決めているのには
深い事情があるものと察する。触れてはいけない痛みを感じる。
聞けばまだ昼食も食べていないとのこと。もしやと思って
ほんの気持ちだけれどお布施をもらっていただく。
Mさんの手を取り包み込むようにして渡すことが出来た。
お布施は決して「あげる」のではなく「もらっていただく」もの。
欲深い人間だからこそその欲を手放すことだと学んだことがある。
涙ぐむMさんに私も胸が熱くなった。情けは人の為ならず。
今日は二回も会えたのだものきっとこれも縁だろうと思った。
その時、傍らの雀色の田んぼに大きな白鷺が飛び立つのが見えた。
「ああ鳥になりたいな」とMさんがふっとつぶやく。
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