曇り日。夕方から雨がぽつぽつと降り始める。 久しぶりの雨の匂いがなんだか不思議と懐かしい。
お大師堂でまた顔なじみのお遍路さんに会った。 何度も会っているけれどいまだ名前を知らない。 自分で自分のことを「変わり者」だと言うだけあって ほとんど笑顔を見せる事もなくいつも怒ったような顔をしている。
けれども何度か会っているうちに少しずつ微笑んでくれるようになった。 今日もちょっとだけ笑顔を見せてくれてとてもほっとした気持ちになる。
私にはとうてい理解できないような難しい話しをいつもしてくれる。 その時の目はとても真剣で一生懸命に伝えようとしているのがわかる。 だから「わからない」と言ってしまうことはとても出来なかった。
ひとつだけわかるのは他のお遍路さんとは違うのだなと言うこと。 それは悪い意味ではなくて何かとても大きな「信念」を感じるのだった。
話しの最後に「明日のことはわからないほうがいいよ」って言った。 もしも明日死んでしまうことがわかったらどうする?って私に訊いた。
「いのち、たいせつにしましょうね」そう応えるのが精一杯だった。
俺は死なないよ。だって俺は一度死んだから。
そう言ってにっこりと笑った。そうして「ありがとうな」って言った。
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