いったい何日ぶりなのだろう、久しぶりに山里の職場に行く。 自分なりにスイッチを切り替えたような気分だった。 寝ても覚めても綾菜のことばかり考えていたけれど。 その間、母がどんなにか忙しさに耐えていたことだろうと思った。
その反面、ほんの少しの気の重さもあった。 なんだか嵐の中を船で漕ぎ出すような気持ち。 決して平穏ではいられないのだと覚悟して行かなければいけない。
どうか大荒れではありませんようにと願いつつクルマを走らす。
そんな気持ちを和らげるように山里の風景が目に沁みてくる。 峠道で出会うお遍路さん。緑の波のように揺れる田んぼの稲。
帰ってきたんだなってふっと思った。 そうして待っていてくれるひとがいることがありがたくてならない。 母はとても喜んでくれた。連絡もせずに行ったからよほど思いがけなかったのだろう。
忙しい一日だったけれどとても充実していた。 何よりも荒波が立たずに済んだことが良かったと思う。
帰り際に母と庭に咲く「雪の下」を眺めた。 ちいさな天使がたくさん飛び交っているような花だった。
何があってもどんな日があってもその花が母を守ってくれるような気がした。
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