午前6時の気温は0℃。真冬並みの寒さであった。 けれども日中の暖かなこと。おひさまはほんとにありがたい。
そんな暖かさのおかげで桜の花も一気に咲き始めた。 昨日よりも今日と花が増えているのが嬉しくてならない。
桜の季節になると懐かしく思い出すことがある。 もう30年近くも昔のことなのだけれど。 前年の秋に彼の父親が亡くなってしまって。 彼は勤めていた会社を辞め家業を継ぐことになった。 慣れない川仕事。それは彼にとっても私にとっても苦労に他ならない。
そうして幼い子供たち。ふたりはいつも作業場にいた。 息子はひとり遊びが出来るようになり娘はよく眠ってくれた。 忙しさに追われる毎日。子供たちもどんなにか寂しかったことだろう。
そんなある日、親戚のおじさんに声をかけられた息子。 「お山に行ったらクマさんがいるよ」それは桜の名所の公園の事だった。
それまで一度も何かをせがむという事をしなかった息子だったけれど。 その時に初めて泣きながら火がついたように「クマさん行く!」と叫んだ。
忙しいから駄目だよ。いくら宥めても泣き止もうとはしなかった。 それにはさすがに参ってしまって、よほどの事だろうと私達も考えた。
そうね。こんなに良いお天気だものクマさんに会いに行こう!
大急ぎでおにぎりを作る。息子は「クマさん、クマさん」と大喜び。
念願のクマさんに会って満開の桜の木の下でおにぎりを食べた。
息子の嬉しそうな顔。まだ赤ちゃんだった娘は陽だまりで笑っている。
家族でお花見。それが最初で最後のお花見になってしまった。 だからこそ忘れられない。私たち家族の最高の思い出になったのだった。
それ以来何度も桜の季節が巡ってきたけれど、息子はもう泣かなかった。
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