お大師堂でまた顔見知りのお遍路さんに会った。 これまで何度か会っているけれど名も知らぬ人。
初めて会った時にあんずのことを。 この犬は人間の生まれ変わりだとおしえてくれた人であった。
ほんとにそうなのかな少し半信半疑だったけれど。 今日もまた同じことを言われてなんとなく信じたくなった。
例のごとく悲鳴のような声をあげて泣き叫ぶあんず。 その人はすぐに駈け寄って行って「そうか、そうか」と。 うなずきながらまるで犬と話しているようであった。
お大師さんが怖くてたまらないって言ってますよとか。 前世でこっぴどくお大師さんに叱られたみたいですねとか。
だから人間に生まれることが出来なかったのですよと言う。
信じる気持ちと信じたくない気持ちでなんとも複雑な心境。 けれども否定することも出来ずただ頷くことしか出来なかった。
もし本当だとしたらあんずが憐れでならなかった。 いったいどんな悪い事をしたのだろう。もう赦してはもらえないのか。
そうして来世もまた犬になってしまうのだろうか。
それはあまりにも可哀想。どうか人間になれますように。
お遍路さんが話しかけてくれたおかげであんずはすぐに泣きやむ。 ちゃんと話を聞いてくれる人が欲しかったのかもしれないなと思う。
「ありがとうございました」お礼を言って家路につく。
ふっと振り向くとその人が微笑みながら見送ってくれている姿が見えた。
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