風が匂う。それは金木犀の香りだった。
なんて優しく匂うのだろう。しばしうっとりと佇む。
職場の庭にその木はそっと立っていた。
母が好きで植えていたことを思い出す。
まだとても小さな木。それなのにこんなに。
花をつけて香ることが出来るのかとおどろく。
なんだか魔法使いが宿っているようだった。
ちちんぷいぷいと唱えているような気がした。
「おかあさーん!」と子供みたいに母を呼ぶ。
嬉しそうな母の笑顔。「ほらね!咲いたでしょ」
まるで我が子をほめるみたいに得意顔の母だった。
レモン色の花はやがてすぐにオレンジ色に変わるだろう。
そうしてぱらぱらとあっけなく散ってしまうことだろう。
けれども最後まで香ることをあきらめずにいてくれる。
そうして風のなかにいるひとたちのこころを癒してくれる。
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