夕陽の空に蝉がなく。さけぶように蝉がなく。
そうして月が浮かぶ空に秋の虫達がなき始める。 ちりんちりんとあれは鈴虫の声なのだろうか。 その声があたりの熱を冷ますように聴こえてくる。
とても暑いいちにちだった。 そんないちにちが平穏に暮れていくのにほっとする。
母が何事も無かったように仕事を始めた。 はらはらとしながらもそんな母を見守る。 もっと労わってあげなければいけないのではないか。 思い遣ってあげなければいけないのではないかと思うばかり。
けれども自然体がいちばんかもしれないと思いなおす。 気を遣い過ぎればそれがよけいなことになってしまいそうだった。
また口喧嘩をしたりする時もあるかもしれない。 そうしてすぐに仲直りをする母と娘でありたいものだ。
母がいない間にあたりの田んぼはすっかり稲刈りが終わっていた。 風がにおう。ほんのりと藁のにおいのする風が吹きわたる。
農家に生まれた母には懐かしいにおいかもしれない。 子供の頃を思い出したり、先に逝った父や母や姉や弟のことを。 母はどんなにか愛しく思っていることだろ。
おかあさんすこし手をやすめて風にふかれてみようよ。
わたしはひとり風に吹かれながらこころのなかで母のことを呼んだ。
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